第10章 末裔の貝殻は開くのか?
明後日の方向を見て、伏黒は哀れみの視線を私に向けている。下戸なのは皆知ってるのかもしれない。
「俺、変わろうか?」
『いや、もうすぐだし平気でしょ。着替えとか水飲ませたりするし……って介護かっ!』
伏黒との会話でちょっと覚醒した悟は後頭部から肩にすりすりと顔を擦りよせ、伏黒がぎょっとしてる。そりゃあ外でいちゃつく事はしなかったから、突然のこの行動にびっくりするはずだ。悟はへっへっへ~と変な笑い声を出しながら私の頬をぷにっ、と指で押した。
「見て見て恵~、僕、ただいまお持ち帰られ中!きゃっ☆食べられちゃうっ!ハルカちゃんの肉食女子っ!」
『……チッ、超面倒くさいからこの背負った粗大ゴミここに置いて私はさっさと部屋に帰ろうかな~』
よいしょ、と通路の端に下ろそうとしていると(伏黒が呆れた視線を向けてる…)悟が脚をちょっとばたつかせて抵抗した。
「ウソウソ!歩けない僕に変わってハルカに送って貰ってるんだよねー!恵もさー、こういう子を嫁に貰いな!」
「あーハイハイ惚気話は他所でやって下さい」
思いっきり大きなため息を吐くと酔っぱらいの私達(主に悟)を置き去りに伏黒は外へと向かった。
夜の散歩かな。もしくはひとり呪術とか体術の練習とか。悟も黙っていたから、私と同じく寮の外に出ていく伏黒の背を見送ってたのかもしれない。
止めた脚を再び部屋に向け、私の部屋の鍵を開ける所で悟は私の上半身をぎゅっと抱きしめ、髪に顔を埋めてる。
「……ハルカ。送ってくれてありがと!」
『どういたしまして。今度からは自分で頼んだ物飲みなよ、というか留守番出来てないからご褒美ナシね』
「はあ~~っ!!?それなくない?何それ?」
悟を玄関までおぶって来たし任務完了だ。背後で喚く悟を背から下ろし、不服そうな顔に胸元に引っ掛けていたサングラスを掛けてあげた後は、さくさくと部屋の電気を付けて明日への支度を始めた。