第10章 末裔の貝殻は開くのか?
たぷたぷの大ジョッキの中身なんてどっかに消えていて、私はいろんなお酒をいつものようにちゃんぽんしていた。
……次はミドリを頼もう。
硝子が飲んでいたハイボールをテーブルにそっと置きこちらを見る。
「私も聞いた時は少しは驚いたけれど、ハルカが来た時からあいつに目を付けられていたのは分かっていたからね。まさかそこまで本気にしてたとは思わなかったなぁ。先日五条から聞いた時点で察したよ、クズでもやる時はやるんだな…って…ああ、はぁ~……ハルカ、失敗だ失敗」
目の前から注文したミドリが私の前に出され、私よりももっと先を呆れた視線を向けている硝子。指先でどこかを指してる。
真っ赤なチェリーの乗ったミドリを自分の元に引き寄せてから、歌姫のげっ!という声を聞き、私はその女ふたりの視線の先を見た。
『げっ!』
店舗の窓の外で目立つ白髪。左右にうろうろとしてサングラスを掛けた顔がこちらをちらちらと見ている。
思わず私は、あー…と声を漏らしてから、ふたりを向いた。
『不審者かな?通報しときますか?』
「そんな事しても逃げ足だけは早いからなぁ、あのクズは」
はは、と硝子はグラスを傾けてどうせこういう事になるんだろうと思っていた、みたいな諦めの顔。
『散々注意したんですけれどね…』
「言うことを聞かないのは昔から一緒で今に始まった事じゃないけどねぇ……そういうやつなんだよ!あいつは!」
『結構楽しかったんですけれど、お帰りフラグが発生したんで私はそろそろ帰り支度しますね』
まだもうちょっと飲みたかったなー、だなんてちょっと肩を落としつつ、来ちゃった最後の一杯を飲んだら帰る準備をするか…という所で片手をポケット、もう片手をこちらに手を軽く振りながら店内へとやって来る人物。
「ヤッホー!悟君という名の羽織を忘れてるよ~ハルカ!留守番ってかお散歩に来ちゃった!
なーんだハルカの言ってた、硝子の先輩って歌姫の事かー!まあ先輩節利かせてるっていったら歌姫くらいだもんねー!」
「おい、敬語!」