第10章 末裔の貝殻は開くのか?
81.
『いい?もう一度言うよ?』
「ああもう、分かったって!邪魔しなければ良いんでしょ?僕は隅の観葉植物にでもなってるからさぁ~…」
『違うんだよな~…』
寮の部屋から玄関まで行こうとした所でのやり取り。
まるで子供に言い聞かせるように、私は着いてきそうな悟に頼み込んでいた。
学校を終えて私服に着替えて。部屋で出かける準備に追われる私の背後に、なーにしてんの?…と抱きついた28歳児。彼に今日は"家入さんとその先輩との飲み会があるから悟は来ちゃ駄目"と少し前から言ってはいる。
何度も留守番を頼むも観葉植物にだの壁にだの言って着いてくる気満々でさ……留守番の意味絶対分かってないだろ、この人。着いてくる気満々なのが読み取れる……。
伏黒にかつて言われた、言い逃れが出来ないレベルでこちらから言わないと駄目という言葉。他に何を付け足せば良いんだろう?
首筋でクンクンと多分、ボディスプレーの匂いとか嗅いでいる悟の頭をふわふわと私は撫でた。
「んー、留守番って言われても心配なんだよね。どっかの馬の骨にハルカに手を付けられるんじゃないかって不安なんだけど」
『家入さんとその先輩と私の3人、女子会ですので男性は呼んでないの、だから悟は参加しちゃいけないよと言いたいんだけれどもご理解されておりますか?』
行きはどうせタクシーだし見送りも要らない。家入には悟を留守番出来るように躾けてから合流しますとメッセージを送っている。
とりあえずぎゅっと抱きついて離れない悟をちゃんと言い聞かせ、私から剥がすことがまず高専前に呼んでいる最中のタクシーに辿り着くまでの第一ステップである。
悟は髪がぼさぼさにならないようにの配慮か、私の結った先の髪を撫でていた。
「えー?今の僕はハルカの一部だから良くない?あっ、そうだ!二人羽織でもしていけばよくね?YOU、僕を着てきなYO!」
『二人羽織すな、明らかに浮くわ!』
さっきからこの調子。ずっとくっついて出かけるに出掛けられない。心配してくれるのは嬉しいけれど、家入の先輩は悟が苦手だと聞いたからわざわざ連れて行って嫌な気分にさせてしまうのも……せっかくの飲み会、楽しみたいじゃない。私は悟が好きだけれど、その人にはストレスになっちゃうしねえ…。
仕方ないな、と鞭モードから飴モードに切り替えようと私はため息を吐いた。