第10章 末裔の貝殻は開くのか?
80.
ヒソヒソと周囲の遠巻きからの小声に囲まれながら、私と悟は横倒しになった棺桶に勇ましく片膝を立てながら座る母の近くへ。悟はやや傾いた墓石に肘を掛けている。
私は母にここに白髪化の進んだ式髪をリセットしに来た事を、それから恋人である悟を私の口から改めて紹介をした。
しょうがない、と母は諦めた顔をしていたけれど。
「そっ!だから僕は近々娘さんを貰っちゃおうって思っていてねー、ハルカのお母さんにご挨拶に来たってワケ!」
物怖じしない悟は私の母にがんがん攻めていく。
母は腕を組み、倒れた棺桶の上で脚を組んで悟の話を聞いている。時折回りの先祖たちにメンチを切ってるので、生前の私の母と大きくかけ離れていて、元気で優しい母からヤンママに変化して来ている。
……母は強し、その言葉の意味違うけれど、違う意味での強さを持っていたわ。今そんな母を目の当たりにして、母の言葉が本当ならば父親をぼこぼこにしたというのも信用できる。今目の前にしてる母ならやってしまいそうだ。
"ふーん、で?五条家の坊やがうちの子を嫁にするって事は五条家に入るって事?春日に入るってわけじゃないでしょ?"
にっ!と口元に弧を描いた悟は私のすぐ隣にまで近付くと母の前で私の肩を思い切り引き寄せた。
『わっ、悟っ!』
「まあまあ!実はもう春日の一族についてはねー…五条家の名目で買わせて戴きました!」
""はぁー!?""
『はぁー!?』
素で驚いた私と、各場所からのブーイング。
それを気にせずに悟は更に続ける。きっと良い反応をしてくれるギャラリーがいるからこそこの人、楽しんでるわ。引き寄せられたその手を見て悟の顔を見上げれば母から私へと視線は向けられてる。
今日も楽しげにこの地獄の中の青空ふたつが細められていた。
「簡単に買えたよー?春日家お金大好きでしょー?もう支払い後なんで僕のモノでーす。
それでさー、五条家の元でね春日の本家は五条のモノ、お婆ちゃんの当主も降りてもらっててね、実はハルカ現当主なんだよね」
『えっ初耳』
「知らなくて良いでしょ、今初めて言ったし。もうすぐ僕ら結婚するし」