第10章 末裔の貝殻は開くのか?
悟は硬直して、片手でぱちん、と音が鳴る程に口元を押さえている。その空色の瞳は笑ってる。
「リョウコ(龍子)とコテツ(虎徹)、タイガ(大河だけど読みが言わずもがな)…って…キミ、龍と虎の子なの?さっきの話聞くにお義母さんもレディースだったって事でしょ?」
『言っとくけど私はどちらでもない普通の名前だかんねっ!』
今にも吹き出しそうな悟をしらーっ…と見る。私は母の過去をここで今初めて知ったし確かに龍と虎の間の子なんだな、とは思うけれど。確かに両親とも背にモチーフになる生き物が描かれたスカジャンとか着たらめちゃくちゃ似合いそうだ。
まさか自分の母がキレるとおっかない父親よりも強いだなんて初めて聞いた。母が病院で亡くなってもその話を聞いていなかった。だからずっと、明るく元気な母だと思っていて……。
「じゃあきっとハルカにも暴れん坊な龍と虎の技術が眠ってるんだろうね!」
『んー?どういう技術なのかな?悟君?言ってみろ?』
「バイオレンス!」
はっきりと言う悟に私は呆れ、母は"あっはっは!"と声を上げて随分と楽しそうに笑う。
"そりゃあそうだろうね!私が封じ込められたのはこの死んだ春日の一族で一番強いから、全員をぼこぼこにしてたら恐れられてね~…"
『全っ……ボコったの!?』
"末代ほど強いんだ、ただでも私はリーダーやってたのにそんなおまけも貰っちゃねぇ?"
──つまり。迫害されて繭状に封じ込められていたのではなく。
禪院を呪って出来た春日の一族に、嫌悪感を持っていた母が滅びることを願って私から術師としての視点を隠した。それが私が見えるようになってしまい術を使って長引いてしまった滅びまでのカウントダウン。
若かりし頃のように領域内で暴れまわってしまったら、多勢に無勢ああいう事になった。
私が術師として力を持ち始めて初めての領域展開。反論も出来ない母を見て私も悟も迫害されてるって思ってしまったワケで。
なんとも言えない、可哀想な扱いをされていたと勘違いしていた私は悟を見れば口元と腹を押さえてヒーヒー笑っている。
「助けは要らなかったんだろうねー、きっと!流石にハルカの親御さんなワケだ!」
『そう、みたいだねー……ん?流石にってどういう意味?』
「ンー?ナンデモナーイ」
周囲の者たちの母を見て怯える様子を見て、私は肩を落とした。