第10章 末裔の貝殻は開くのか?
カチャッ…と音を立てサングラスをしまう悟は、この場には似つかわしくない程の空を目に宿してる。私に少し細めた瞳はその視線を私の母へと向けた。
「こんにちは、ハルカのお母さん」
"ああ、この先祖達にやられた、くそったれな封印の中で聴こえていたよ、五条家の坊や。ハルカの彼氏なんだって?"
聞き慣れないというか悟をそう呼ぶ人なんて今まで居なくて。
坊や、という単語が母の口から飛び出たので吹き出しそうになりつつも、悟の視線で正気に戻る。笑わない、笑わない。
母は悟から私に視線を移す。指と指の間に布を挟んでるらしく、片手はずっと額辺りで硬直させていた。
じっと悟を見て、母は首を振る。
"苦労するよ、ハルカ。この男は女を食いまくってるって顔をしてる。旦那にするなら父ちゃんみたいな少し醜いくらいが良いのよ"
『し、辛辣……!いや、母さんは父ちゃんをそういう理由で選んだというの…!?』
少し口を尖らす悟、かなり肩を落としてる。
女の子と遊んでいたという過去はあるだろうけれど、全ての関係を多分切ってると言うのなら私は悟を信じたい。
母はあの父を選んだ理由は醜いからという理由ではなさそうで。けろっとした表情で手の平をないない!と振った。死んでも元気に表情豊かだ。
"いや…父ちゃんは押しが強くてね?"
「僕も押しは強いよ?ハルカのお母さん、いやお義母さん?」
『張り合わない、張り合わない』
競うように張り合う悟の頭をぽんぽんと撫で、こちらを見た瞬間に私は人差し指を立てて、口元に当てる。つまりは静かにしてろ、と私は言いたいわけで。
遠巻きに他の先祖達が様子見してる中で父との馴れ初めを初めて聞いた。
"私が京都をとりまとめる女チームを作ってたらねー、コテツが突っかかって来たのよ。何度振っても何度ぼこぼこにしてもしつこくって。何度かやりあってるうちにねタイガを産んじゃってたってワケねー…"
懐かしむように母は腕を組んでうんうん頷き、顔に再び布が被った。邪魔、と小さく呟いてまた指先で摘んでこちらを見ているけれど。
私の肩をとんとんと叩き、会話に置いてけぼりな悟は私に耳打ちをした。もう先祖達も式髪を伸ばしてくる事はない。
「ねえ、コテツとかタイガって誰よ?」
『コテツは私の父親、タイガは一つ上の兄貴』