第10章 末裔の貝殻は開くのか?
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私のボロボロの制服を仕立て屋に送るという事で、新しい制服を備品庫から悟に持ってきて貰った。呪いに強い生地とはいえあそこまでボロボロじゃあ廃棄処分な気もするけれど。新品の制服に袖を通す感覚は嫌いじゃない。
ただ悟が制服を持ってくる対価として、"制服着るまでは彼シャツのままで居て"……だそうで。そんなんで良いの?と私はさっさとシャワーを浴び下着を身に付け、ストッキングを履いた後に悟のシャツを制服着るまでの部屋着として着た。薄めの水色のシャツはやはりぶかぶかだけれど、なんだか身に纏えば悟の香りがして少しどきどきする。もしかしたら昨日の時点で悟が着ていた服を渡されたのかもしれない。
だって洗濯とか一緒なのに私とは違う匂いするし。脱衣所でシャツを摘んでさほど意識した事が無かったフェロモン的な匂いか?と鼻を鳴らしていれば着替えてる間に既に良い匂いが漂ってくるわけで。
バターというか、チーズの匂いもあるというか。すんすん…とシャツから空間へ向ける意識。鼻を鳴らしてキッチンにやってきた。悟がキッチンでこちらに背を向けている……フライパンを振って何かを料理していた。
匂いの時点でこの前のジャーマンポテトを思い出したけれど……ああ、あれビールのつまみにしたら絶対に美味しいよねぇ……。ぐう、とお腹がなって現実に戻される。とにかく、予想はジャーマンポテトだと思ったら悟はカルボナーラを作っていた。
更に近付けば振り向き、フライパンを揺すってはまた振り向いた。五条悟の華麗なる二度見。
「はぁー…やっぱり良いよね…グッとくる…」
『ん?…シャツの事?』
「うん、めっちゃイイ、色々とアガる」
絡め終えたものをワンプレート用の皿に盛り付け、少し小さめのボウルのマリネを仕切りの隣に乗せている。後はお湯を入れるだけの状態にされたカップスープを私は覗いて、沸かしたは良いけれどそのままにされたらしいケトルを見つけたので、注いで先にテーブルへと運んだ。
時間的に少しだけ早いお昼という所か。二人前を作っている悟は乗せ終えた後にシンクへ調理器具を移動後、顎に手を添えながら首を傾げて私の前に立ちじっと見つめてる。何か物申したいようにうーん、と唸ってるし。
『……どったの?』
「僕ねー…今、心の中の天使の五条君と悪魔の悟君が揉めてんだよねー」