第9章 五条求婚する
こんな暗い中でひとりで死ぬんだ。もう一度だけでも逢いたかった。それが今一番の後悔。
『(……さと、る、)』
自分が声を出せているのか、空気ばかりの声が耳に入ってふと手放してしまった意識。
次にもしも目覚められれば私は生きているという事だと奇跡を信じながら瞼が降りていった。
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話し声が聴こえたから目を開ける。
風がある。室内じゃないのか、ここは。目が眩しい…するとここは日中の外…?帳は上がっているという事?
「お、ハルカ目が開いたぞ!」
『…うっ、』
腹部が痛む。
覗き込むは先輩3人、そして手入れをされていない街路樹の緑がさわさわと揺れている。
真希の表情は怒っている、そりゃあそうか…!はは、と笑おうとした瞬間に傷がぐっ、と食い込んで酷く痛み、私は呻く。
「動くな!私達が駆けつけた時にはお前、刺されたまま呪霊に倒れ込んでて今髪の毛が全部真っ白なんだ!これ以上怪我負わせたら死ぬぞ!」
「だいぶ弱ってたけどあの呪霊は真希がとどめを刺したぜ!
で、こいつはさー突き刺さったまんまなワケね。だから抜くに抜けねぇんだよな、この包丁さー…」
「しゃけ…高菜」
まだ痛むのはそのせいか。燃える痛みが続いて仕方がない。
『わ…、私の意志で取れないんで…誰か抜いて下さいよ、普通の包丁じゃないですって、これ』
「ああ…これ呪具か…じゃあとりあえず抜くか」
あ、待てパンダ、と真希が制止する中で引き抜かれると、寝かせられた腹部の上を温かい体液がどんどん溢れていくのが分かる。
領域解除から少し時間は立ってるでしょう。刺されてすぐに引き抜かれていたら多分死んでた。時間の経過で術式回路がちょっとマシになってる。ぐっ、と集中すればニチ、ミチミチ…と損傷した臓器や割かれた場所が繋がっていく感覚。
それから、腕を捲くって包帯が見えた真希に手を伸ばした。これには真希も驚きを隠せなくて…。
「……っ、今私の怪我を治す余裕なんてっ」
私は意識が朦朧として、思考が上手く纏まってなくて。ただいつものように怪我を治す…自身の呪術の特徴、今回の同行はそういうサポートだったと思い出したからこその行動だった。
その急ぎではない怪我を治した後に再び気を失ってしまった。