第9章 五条求婚する
76.
重い体に重い瞼。
目が覚めたというよりは意識が戻ったって言うべきだろうか?無意識程度じゃ目が開かない。これはしっかり意識しなきゃ瞼を上げられないんじゃないのかな……。そのまままた寝てしまいそうな気がして起きようとは思うのだけれど。
耳だけは塞ぎようがなくて一方的に情報を集め続けてる。
誰かが私の側に居る。呼吸音や時にため息。布の擦れる音。以前にも嗅いだ事のある匂いでここは医務室の側にある個室だと理解してる。
重たすぎる瞼を私が気合を入れてゆっくりと開ければ、個室の天井と視界の端の逆立てたような白髪。
少し見づらいな…、と私がゆっくり首を傾けて悟が目に入るように動けば、片手でそのアイマスクを首にまで下げる男。ベッドの側で椅子に座っていたみたいだ。アイマスクを下げれば立てていた髪もさらさらと寮の部屋で過ごす時のように下がる。
表情が柔らかく安堵してるように見えたけれどそれは見間違いかな……爽やかな瞳の奥から伝わる感情。すっごく怒ってる。思わず、私は口元をひくっ、と動かして笑った。
「──おそようサンタルチア~…さて質問です!何故俺は怒ってるでしょうか、ヒント、オマエ!」
『それ、答えもう言ってない…?』
こちらへと伸ばされた手は枕に着けた頭上から撫でるように手ぐしがされていく。
私に見えるように一本も亜麻色が入っていない髪をわざわざ見せつけた。
悟は口元はしっかりと笑っているけれど、目は笑っちゃいなかった。
「ほーら良く見てごらん?これ…ぜーんぶ白。白、白、白白白!
多分ね、よく見たらちょっとだけプリンってるのあるから、ハルカと出会ったあの時に染めたメッシュの部分がこの状態でも一部だけ残ってたワケ!見辛いけれど奇跡的に今キミは生きてる状況なんだよね、ほーんと無茶しまくって良く今生きてられるよねー?」
『わ、わあー奇跡だねー魔法みたーい』
「ちょっとお黙り?」
さらさら、と音を立てて私の髪が白いシーツに落ちていく。
悟は真顔になって私を覗き込んだ。ふざけた声色も落ち着いている。
「ねえ……僕、言ったよね?キミにさぁ、無茶しないでって言ったよね?結婚前に僕を"やもめ"にするつもりだったの?なんで無茶したのかなー…?そういう悪い生徒にはお仕置きしないといけないなって思うんだけれど、大事なキミだからこそ選ばせてあげる、」