第9章 五条求婚する
"一緒に…逝こう"
『一緒に逝って、たまるかっ!』
領域が解除され始めてきた。先祖達が与えた呪霊への式髪での攻撃も燃える炎も消えかけだ。
ここから出たら呪力はまっさらな状態になる。そしてしばらくは戦えない。この死にぞこないを早く始末しなきゃ…。
私はこんな所で死にたくない。
悪あがきはするよ、でも敵に命乞いなんてみっともない事はしない。今はただ…命乞いする場面じゃない、足掻く場面。
一度殴った程度の反撃。呪霊の肩に当たって炎を吹き出した後には私はもう自力じゃ立てなかった。
……意識だけあるってのは辛いもんだな、と弱る呪霊に抱きとめられるように支えられる。
"欲しい…ほ、欲しかった…オマエが…"
きっと狗巻が祓った、この建物で起こった、無理心中の女と間違えられている。これ以上の攻撃は来ない、ただ直接触れられて自身の天与呪縛が意味もなさそうなのに僅かに残った呪力分だけ働き続けている。
私の腹に突き刺さるのは多分普通の刃物じゃない。呪具の一種だ。刺さっていると分かっていながらも自力で取り除こうという意志が全く働かない。この呪霊の想いを封じ込めているかのようだ。
直接触れているから燃える明かりでこの地下は明るい。
視界にわずかに入った亜麻色の髪が白く、明かりに反射して白銀にも見えてる。直に触れ続け、腹のダメージを身代わりにし続けた式髪が、一度地毛に戻したというのに白髪具合がこんなにも進められている。
『………うっ、』
もう、ここで私は死ぬのかもしれないな。後の世代に受け継ぐ事無く私で終わる愛憎から始まった呪いの一族。クラスメイトにも高専関係者にも父親や兄貴にも、大好きな友人にも感謝もお別れも言えてない。生が死に片足を突っ込んでからの後悔。
いつかの補習で彼が言っていた。呪術師はいつ死ぬか分からないから後悔無いようにしなよ……だったっけか。
──重力に押しつぶされそうなくらいの脱力感。重い体は動かせない。
後悔……ね。
今ふと思い出すのは彼の微笑む顔……私がここで死んだら悟をひとりにさせてしまうという事。私を導き、何度も助け強くしてくれて、たくさんの学びを与えた悟。大好きだった、愛してた。とても短い期間だけれどかけがえのない、私がこんなにも愛したのは五条悟だけだった。