第9章 五条求婚する
各々に言ってるな…と小さくなっていく先輩たちを見て、自身をぶら下がったりしがみつく状態から落下に備えるように、先程吹き飛ばされた時よりも厚めにぐねぐねと式髪達を使役する。
『先に行ってますねー!』
「馬鹿囮ーっ……行……っ~」
声が小さくも空間に響く。薄暗い中でも術式で編み出した厚い繭のようなクッションを信じる中でガクン、と衝撃がやって来た。周囲からパリンッ!というガラスの割れる音、少し酸っぱいぶどう酒の香りも仄かにする。
随分厚めに編み上げたのか、呪霊に当たって足元方面が明るい。そのおかげで皮肉にも周囲が見渡せる。一部のワイン棚を破壊していたみたいだった。
きょろきょろ、とみれば手が届く範囲にやや長方形の白いもの。別荘の持ち主だったら埃でも被ってるだろうに新しい…私の持ち物で間違い無さそう。
手をクッションにした式髪の隙間から伸ばしかけた時に、呻くような声を聞いてその方向を振り返った。
"アア…アア…欲しい、欲しい欲しい……どうしてお前は俺だけの物にならないんだぁ…っ"
バリッ!バリッ!と式髪を赤黒い呪霊はかき分けながらこちらに向かってくる。当然呪力でオレンジ色の炎に包まれながら。その炎は確実に呪霊を焼いているのに熱がる様子はない。
急いで視線を封筒へと戻し、悟からの白い封筒をバッグにしまい込んで私は意を決する。片手で自身の結んだ髪を、呪霊が燃える明かりで確認した。半分以上が白だ。
──全てのこの面倒くさい天与呪縛と、術式はこの為にある。
掻き分けるように近付くのならばと私は指を祈るように組んだ。
『裁きの時間だ殺人犯の呪霊、地獄を見せてやるよ。
──領域展開、集大成"鎹"…!』
この暗い地下、呪霊を燃やしながらも私は地獄を呼び出して戦う事を選んだ。