第9章 五条求婚する
75.
赤い空、ひび割れた土。棺桶や石碑が乱雑した死のバトルフィールド。
私や呪霊を遠巻きから囲むように、辺りには真っ白な髪の先祖達がずらーっと囲んでいた。ちらりと見た枯れそうな木や立て掛けた棺桶を巻き込むように縛られたような繭……相変わらず私の母リョウコは特別に封印されたままに。
"今回は末裔ひとり、と呪霊か…"
特別な存在感を放つひとり赤い着物の女、初代の鎹が言う。顔を布で隠しているけども言葉を発せば呼気で布は揺らぐから。
大してこの人達自体に興味ないけれど、それでもこの先祖達の力を借りねば呪霊は倒せない。
『どうも、末裔のハルカですよ、ご先祖様方。二級以上が確定の呪霊を一匹ご招待させていただきましたんで』
現実の暗い空間じゃないから光源下の中、今なら動きがはっきり分かる。以前悟が言ってた。攻撃は絶対に当たるって。
手を突き出し、しゅるる…っ!と音を立てて槍状に編み上げた"怒髪天"の式髪。その白い槍で一度突き上げる。
ズグ、と少し硬めな確かな手応え。手から任せにぐりぐり押し込み、二度力任せに蹴って深く楔を打ち込むように呪霊の体に刺し込んだ。
避ける動作も意味のない行動、すんなりと私の槍が深く入り込んで呪霊にジェストミートしている、これ以上に逃げる余裕もなく突き刺さってる。槍と私を繋ぐ式髪はまるでペットと飼い主を繋ぐリードのようにたるんでいる。
近すぎれば反撃もあるだろうし……。
"んがっ…あああっ!何故、俺は、俺は俺は俺はただ、欲しくて欲しくて欲欲欲ほほほほ!"
両腕を振り暴れてる。なんだ、せっかくのこの空間に連れてきて私だけが戦ってるじゃないか。先祖が協力すると聞いたのに…。
チッ、と舌打ちをして鎹達を見た。
『私が溜め込んだ呪力分は働いて頂かないと。わざわざ領域展開というシステムまで作って見物だけするのが春日の一族のやり方ですか?』
"……生意気すぎる末裔だ!"
表情は誰一人見えないけれど、その発言した白装束の一人は少し苛立っている。
前回学んだ。
この領域内、春日の一族同士は殺せないらしい。そして書物によれば末代程に権力がある。この領域の支配権。