第9章 五条求婚する
弱る呪霊はゆっくりとした動きで立ち上がり私を見ている。
呪いが祓われていく姿でも一番距離を詰めている狗巻でもなく。
突然の暗転。低級の呪いが完全に祓われての視界を奪う闇。
"どうして私なのよォォ!!"
「"潰れろ"っ!」
呪いの燃える明かりが完全に鎮火するタイミングで私の腹部に重い圧。ズン、という足元が立ってられない程の衝撃。
『…ッン、ぐぅ!?』
……視界が闇に切り替わる瞬間の攻撃だった。
確かに狗巻の攻撃もあった、遠ざかる前方ではドォン!とこの大きな建物すらも揺らがせる衝撃の攻撃をしていた。でも狗巻よりも先に私は呪霊による攻撃を受けてしまった。
走ってきた通路を戻る様に腹部をまっすぐ攻撃され飛ばされている。エントランスホールまで吹っ飛ばす…っていうか、早く受け身…いや、ここは"怒髪天"で自身を守るクッションとして全方向に不定形に式髪を延ばし、ぐにゃぐにゃとした硬めの毛糸に絡まるようにゴロゴロと転がった。それでも勢いはまだ収まらずしばらく上下が分からないくらいに転がってる。
そんな中でも戦いの中踏ん張る声や気合の声が近くに聞こえる。エントランスが近いって事だ。
転がる速度が落ち怒髪天を解除した。蹴り飛ばされたのだか殴り飛ばされたのか…暗くて判断は取れなかったけれどその飛ばされて転がるまでのダメージは無い。
……ただ問題なのは。
『うっ…ごほ、』
重い痛みが腹部をいつまでも離れない。脈打つような痛みが奥に留まっている。
「ん?そこにいるのはハルカか?」
這いつくばる様に、ずくずくと痛む腹を片手で抑えながら一直線に照らす懐中電灯の明かりを見た。
私が壁に差し込んだ懐中電灯…それはパンダを照らしてた。
『……はい、ハルカですよ』
「は、おまっ怪我してんじゃねーか!」
飛ばされてきた方向からこっちに走り寄る足音。乱雑に明かりが照らし駆けてくるのは狗巻か。
自身の術式で回復をしながら、一度ふらついて私はその場に立つ。
『もう大丈夫です、狗巻先輩もこちらに来たんで引き続き照らして……、』
バッグの懐中電灯を着けて真希の方を照らし始めると処理をし終えたのかパンダを気にしながらこちらに向かってくる。
連戦故の疲れもあってかため息を吐きながら肩を落とし、数歩進んだ時だった。
ミシ……っ
『は?』
「なんだ今の音…」