第9章 五条求婚する
今日の私は狗巻の補佐(治療)、この真っ暗でも流石に懐中電灯で照らせば分かるエントランスホールで激しく戦い続けるふたりに声を掛けた。
『壁に懐中電灯ぶっ刺しておくんで、私は狗巻先輩の補佐に行ってます!』
「なるべくすぐ戻れよー!」
「お前は呪いホイホイなんだからあまり離れるなよ!」
はい!と返事をしながら、真後ろの壁に反転術式"怒髪天"を使ってドス、と穴を開ける。その壁の穴に懐中電灯を差しこみ、もう一つを握りしめて狗巻の後を追った。
この建物は外から見た時はまあ大きいな、くらいに感じていたけれどそれは帳を降ろした後じゃ印象が変わる。暗いからこそ全体像が見えない。
車内でタブレットの情報を皆で一通り見ているけれど…すべての別荘の設計図ではなく、自殺があったものや今いる最初の殺人があった建物の設計図もデータとして入っていた。事故物件の中でも広く、ワイン貯蔵庫の地下室まである別荘…。
壁抜けしながら覗く呪いを少し呪力で燃やしながら蹴飛ばし、狗巻は奥の呪霊により接近していた。私はその後に続いて走っっている。
設計図なんて全部覚えていやしないけれど。まずひとりにならないように狗巻の補佐を継続しなくては。
狗巻が通り過ぎた後の見えない通路、そこから出てきた小型の呪いを私は殴り、その呪いを掴んで引き摺りながら狗巻を追う。
呪力で体を強化せずとも意外と軽い。ぽやぽやとした毛が気持ち悪いけれど…私が触れた事によって呪いが燃えて周囲が一気に明るくなった。
"ア゙ア゙ァァッ!"
「おかかっ!」
『わー狗巻先輩前見て前、前!』
首を振って、背後の私にわざわざ戦うなとでも言いたそうな狗巻の注意を前方へ向けさせた。
前方では倒れていた呪霊が起き上がり、ガラスの破片を踏んだパキ、という音。
狗巻の背や後頭部が見える状態に戻り、私はぶんっ、と掴んだ呪いを奥へと投げつける。こべり着いたのか、呪力にまだ燃え続ける呪いが程よい明かりとなって奥を照らしている。
エントランス左の突き当りは通路に曲がることない、正真正銘の行き止まり。
呪霊は相当に弱っていた。そりゃあそうだ、呪言をもろに食らっていたし。
呪いの方は虫の息で私の呪力の残りでプスプスと煙を上げ、鎮火と同時に崩れていく所だった。明るいのもここまで、私は懐中電灯を狗巻は呪霊にトドメを。
"ゥシテ……"