第9章 五条求婚する
73.
──殺人事件があった別荘。
そこに来るまでに先輩方は呼び寄せられる呪いを祓っていった。
私は引き寄せる囮。近くはもちろん離れた場所からも、あらゆる方向からひっきりなしにじわじわと距離を狭めてくる奴らを…まるで生命活動のように絶えず呼び寄せていた。そんな光景は今まで見たことがなくて先輩達が大変心強い。慣れているからこそ頼れる。
狗巻が呪言を使えば私はその度に彼の喉のダメージを式髪へと移していった。任務の度に嫌でも思い知らされるデメリット。
だんだんとこの異形達との遭遇に慣れてくる自分がちょっと嫌になる。
「しゃけ…、」
ザッ、とアスファルト上の細かい砕石を踏みしめる靴底。私達の足並み揃った移動もピタリと止まる。
一軒の別荘の前に立つだけで肌で感じる異質さ。ぶるりと震えた。本能が"これはやばい"と警告しているようだった。
『私、初めてですよ、こんなにも強い気配……』
あん?と真希が振り向くと私の頭上に手をばすっ!と乗せる。
悟がふわりとした優しい感じに頭をぽんぽんっ!とするのに対して真希のは叩かれるとまでは行かないけれど乱暴な頭ぽんぽんっていうか。
女子でありながらも男っぽい仕草に少しだけきゅんとしたのは内緒にしておこう、悟がヘソを曲げそうだし。僕だってやれるもんねー!って頭バスバス叩いてきそうだし…。
真希はにっ!と笑い、乗せた手を退けた。
「お前ら一年もいずれはこういうのばっかり相手するようになるぞ、良かったな?先に体験出来て」
『わ、わーいせんこうたいけんだー』
「ハルカ棒読みになってんぞ」
パンダに突っ込まれて冷静に良かったものなのか、という心の自問自答は置いておき。
真希は正面を向くとパンダが先頭にその重そうな両開きのドアの取ってを握る。
「じゃあ任せた」
「あいよー…って結構硬いなコレ…っ」
両腕が開かれていく際に相当力が込められたのかぷるぷると震え頑丈な鍵を力技でこじ開けた。
ガンッ!バギャア!なんて荒々しい音を立てて、ドアに取り付けられた根本の丁番も破壊してる。破壊音を追いかけるように丁番を止めていたネジがカラカラカラ…とパンダの足元で止まる。
振り返るパンダは何も言わず、壁にドアを2枚ともそっと立て掛けていた。動と静…、侘び寂びってか…。
「……てへっ☆」