第9章 五条求婚する
72.
高専の敷地内、出入り口付近にて。
車庫から出された二台の黒塗りの車。それぞれ行き先が違う。
私は一年でありながら二年の生徒が乗っている車両にクラスメイトに軽く手を振ってから足を進めていた。車内から片手を上げる程度の釘崎、ぶんぶんと手を振ってる虎杖。窓を開けちゃいないのに車外にまで"がんばれよー!"という声が聴こえた(そして伏黒は耳を押さえてた)
私の進むブーツの音と、ドアの開閉音が前後から聞こえる。一年はクラスメイトは全員乗り終えていて運転席に伊地知が乗り込んだドアの音。私の向かってる先の前方の車両……二年の乗る車の方はパンダと真希が何か話をしている(パンダが乗り込もうとしてる状態なのですぐ終わる話だとは思うけれど)
そのパンダ達の居る車へと進んでいる、私の袖を誰かが後ろから引っ張っているので振り向けばアイマスクをしている悟が掴んでいた。何か用事があるんだろうな、悟は一年の方に着いていくみたいだし、と私は立ち止まり悟を見上げる。
『……?何か言い忘れ?』
「うん…、流石に言わずとも分かってるとは思うけれど絶対に無理をしないこと!守ってよね?」
目元は見えないけれど、口元はいつもの調子でにこやかで。
けれども学校生活だけじゃない、私生活までずっと一緒にいるせいか私にはアイマスクの奥は瞼が開けられていたら、きっと優しい瞳をしているんだろうと推測が出来る。
その悟がポケットから白い封筒を私にそっと手渡す。横型の真っ白い封筒、手にとってくるりと回転させれば、可愛らしい幼児向けの猫のシール(キャラクター)で留められていて私は思わず笑ってしまった。
つかみはオッケーとみたのか悟も釣られて短く笑ってる。
「はい!そちらは恒例の封書となっておりまーす!
オマエの言う通り恋人でいるけれどさ。僕はいつでも気が変わるの待ってるからね」
『…うん』
シールを剥がしてまで確認せずとも婚姻届が折りたたまれて入ってるのが分かる。任務の時の…行く前に渡されてもどうしようもないっていうのに。
急かすように渡しておきながらもそれでも悟は私が"いいよ"と言うまで待ってくれるらしい。強引なんだか優しいんだかなんだか面白い人だよ。
優しい笑みは真面目な口元へと変わっていく。