第9章 五条求婚する
「それから最後にひとつ……式髪の消費もこないだよりも進んでる。いくら白くなるほどに呪力量が多くなるったって、100%の天与呪縛が出せると思うなよ?」
声は抑え気味に、とても真面目な話をされる。
言葉の最後に口元は笑ったけれど、この話はきっと他の人には聴こえてないハズ。私は悟の話に一度相槌を打った。
「オマエ達一族が唯一100%を出せる時が死んだ後の話。オマエみたいな生きてる術師がやるもんじゃない。
だいたい無茶するから家系図の人らはコロッと死んでるんだ。オマエは生き延びる方向にシフトチェンジして無理に戦おうとするなよ?」
便利さもあるけれど不便でもある天与呪縛。術式で溜め、反転術式で放出出来るも今の私の髪色は地毛よりも白が目立っている。それを自身で毛先を掬って見る。
今日は大体サポートのはずだし任務に慣れている先輩達と一緒。大丈夫なはず。死に急ぐ事はしないでしょ。
『……うん』
「……そっ!じゃあ頑張ってね!主に棘の治療だけれどあまり前線に出すぎないようにねっ!」
背を向けて片手を振る悟。
渡された封筒は大きな紙を何度か畳んだような膨らみがあって、昨日ちゃんと言ったのになぁ…と、腰回りのバッグにしまうと私は後部座席……狗巻の隣へと乗り込んだ。
「おう、悟との逢瀬は終わったかい?」
助手席からぐりん、と私を振り向く真希はもうにっこにこだ。思わず私は苦笑いを返してしまったけれど。
そりゃあそうか、フロントガラスから見える堂々とした場所で話し合っていたのだから。
私が乗りこんだ事で発車し皆が少し体を揺らした所で今回はボロを出さないぞと意気込む。平常心こそが大事だ。
『…普通の指導ですって。無茶するなっていう』
カーブでパンダ、狗巻、私と少し体重のドミノ倒しを食らう中、パンダが私の腰あたりを指差す。
言葉に出さずとも察した。やはり丸いフォルムでも鋭い。
「お前、なんか悟に渡されてなかったか?ラブレターだったりしてな!」
だからこのパンダ、丸いのになぜこうも鋭いの。
とはいってもラブレターじゃない、ラブレターよりももっと重たいものではあるけれど。
『ああ、提出物ですよー、っても期限まだ先のですんで任務時に渡されてもなんですけれど…まさに、"そういう所だぞ"的な…』
「ふーん、そーなの?」