第9章 五条求婚する
「五条との関係、最近はどうだ?あいつとはうまく続けて行けそうか?」
ずず、と熱そうにコーヒーを飲む家入に、私は両手でカップホルダーを包み込むように膝上に飲み物を待機させた。味の薄いカフェオレの丸いフレームに困った様に笑う私が映り込んでいる。
『その……行動力がダンチですね…』
「……はぁ?」
『前から言われる事はあったんですけれど。今日になって何通もの婚姻届攻めにあっていると言うか…』
いや、嬉しいんですけれどね?と追加して家入の何を言ってるんだ?という表情を見て項垂れる。
これは贅沢な悩みなのかもしれない。
「フフ…それはおめでとう。あいつがそうも行動していくとはね。とてもめでたい事じゃないか…少し早すぎる気がするが」
初めておめでとうと言われた。そっか、悟を知ってる人からしたらまず先に大丈夫?と心配するよなぁ。伏黒なんか特に不誠実だから勧められないとまで言われた始末だし。
確かにめでたい事ではあるけれど、嬉しさよりも私は慎重になりたかった。手の平に温かさをもたらす、丸いカフェオレのフレームから家入を見上げる。
『私としてはもうちょっとこの関係を続けてからが良いんですけれどねー…、交際だとかずっと身内に阻まれてたから付き合ったのは悟が第一号。なんも分からなくって』
好きになって、たくさんの初めてを捧げても早すぎる交際期間の終わりはなんだか寂しい。
もうちょっと色々とどこかに行ったり、一緒に過ごしたい。
なかなかそれを私から外に出せずに自身の心に閉じ込めている。
「ちゃんと話し合わないとあいつに流されるままだぞ?」
『……、』
ズッ…と飲みやすい温度となったカフェオレを一口。
なんとかもう少し先に延ばしたいものだけれど…。
『後で悟と話し合ってみます』
カップの中身が少なくなるほどに熱はどんどん逃げていき飲みやすくなってる。
残ったカフェオレを一気に呷った。
『……ごちそうさまでした』
立ち上がった私はゴミだけ捨てて清掃用具を取り出す。
僅かなブレイクタイムのつもりだったけれど、一部の床に薄く伸びた血液はもう乾き始めていた。