第9章 五条求婚する
「で?ここまで連れてきて何かあったわけ?寂しくてぎゅっとして欲しかった?それとも僕とキスでもしたくなっちゃった?
安心して、この五条悟の唇はハルカだけのモノだから」
『ちゃうわっ!』
さほど重そうではないのか、両手で持っていた書類を片手で小脇に抱えて私の封筒を指す。
「それともこっちの話だったり?」
さっき渡された封筒。中身は悟が用意していた記入すべき所はすべて埋められた婚姻届が入ってる。
それを私は悟の胸元に押し付けて首を振った。
『まだ早いって言ったじゃん…、というかどんだけ行動力あるの?てかいつ用紙取り入った?準備良すぎて恐怖を感じるんだけれど』
昨晩私が寝落ちする際に言ってたとして。今朝も真剣にオムレツに結婚しよ、と書いたり。時間は無かったはず。
見上げた軽薄な男はクスッ、と笑った。
「教えてあげないよ!ジャン!」
『私は三角形の秘密を知りたいわけじゃないんだよねぇ……』
封筒を口をちょっと尖らせ、渋々受け取った悟は書類の束に封筒を戻し、入れ替えるようにクリアファイルを引き抜いた。それは世界一有名なネズミ。テッテーなマウス。そのネズミの柄がたくさん印刷されて集合体恐怖症ならちょっと目を伏せたくなるかもしれない…。
それを悟は私に差し出す。私は口元に緩く弧を描く悟の顔を見て受け取った。
半月状の開けやすいクリアファイルの加工からぺらりと中身を確認する。私がさっき返却したものが入ってる。え…この人何枚も用意してたの…?
『こっちも婚姻届なんですが、先生?』
「うん!そうだよー?何か他に質問ある?」
『今返却したじゃん!』
「こっちは返却しちゃ駄目ー!」