第9章 五条求婚する
……婚姻届。中に入っていたのはその用紙だった。
ぱっと見た感じ今書ける部分、悟の箇所などは記入されている。それを封筒に戻してにこにこと業務連絡を終えた悟が雑談をしているのを見上げた。
視線に気が付いた悟に私は首を振るとふい、と見なかった事にされる。
「じゃあ五条先生!その辺のコオロギは美味いから食えるって言うわけ?」
「え?僕は食べてないから知らないもん。食用に繁殖させてるやつを加工してるって事じゃないのかな?次世代フードってさ!」
「虫食うとか私勘弁なんだけれど」
…。
なんつー話を朝からしとんねん。
『…ってこの前見た動画の話じゃん!』
「そうだよ、予習が出来て良かったねー?」
『え、何テストにでも出るようなモンなの…?』
この前部屋で悟とだらだら動画を見ていてたまたま流れてきたものだった。食えるかどうかを互いにアリかナシかで判定していた。
悟は最後まで"ナシ!"と判定するのに対し私は蜂の子とイナゴだけ"アリ"と答えた。父親の実家で食わされた事があった為に経験があるという事で。
アリと判定した時の悟の表情は雷が落ちたかのようだった。"虫料理食べたら言ってよ?しばらくキスしないから"とまで言われる始末。なんだそれ。そんなに私は虫食ってるわけじゃないぞ、幼少期に食べた経験があるって事だぞ?
だらだらとしたホームルームが終わり、書類を持って教室から出ていく背中。私は封筒を手に悟を急いで追った。
「こらー、廊下は走らないの!僕は逃げないからー特にハルカには」
離れた位置で走ってくる私に気が付き、振り返って待ってるのはこの男。逃げ切られなくて良かった…!念の為悟の袖を摘む。
『ちょっと!話があるんだけれど!』
「え?なになに?次の彗星がやってくる日付とか?彗星観察デートも確かに良いね~!」
『どっから出てきたその話題!』
一年の教室から少し離れた位置とはいえ教室に居る3人に聞こえる可能性がある。もっと安全な場所で話したい。
きょろきょろと周りを確認しながら背を片手で押して階段の踊り場まで連れて行った。押されている間、悟は焦る事もなくサプライズでもあるの?くらいにふわふわしている。