第9章 五条求婚する
悪びれた様子もなく、荷物を抱えたままに片手でおどける悟。
そんな悟にため息を吐きながらクリアファイルで荷物を抱えた手にぺしぺしと当てる。
『もうちょっとさあ……婚約、とかならまだ分かるけれど結婚ってなるとさ…急すぎるでしょ言い出したというか行動っていうか』
初めてを悟にあげた…祖母宅からそんな経過してない筈だし、そもそもあれも婚約っていうよりこれに近いものだった。
私がもう少し悩む時間も、互いを知っていく時間も欲しいというのに目の前の男ときたら。
急に真顔になる悟。
「やだ。僕は今すぐにハルカが欲しいし」
『RTA(リアルタイムアタック)じゃねぇんだぞ?だから付き合ってからそんなに時間経って…、』
融通が利かないのは果たしてどっちなんだろう。
クリアファイルを返却しようとする私に悟はそっと手で突き返す。
「そういえばさ…ノートに挟んであるのも気が付いてくれた?あとロッカーも。ちゃんと確認しなきゃ駄目よー?」
『あ、駄目だこの人ブレーキが利かないや。アクセルべた踏みだわ』
諦めの境地になりかけた私の頭に片手を乗せて、悟は軽く撫でる。
「今日だけじゃなくて明日も明後日も、来週も来月もハルカに受け入れて貰うまで僕は諦めないので!そこんところよろしくねー!」
足取り軽く悟は去っていく。静かな踊り場にぽつんと残された私。
そして教室に帰りながら、ロッカーや机に入れたノートに挟んであるものを見て私は項垂れる。
朝から悩み事が出来てしまった、空はあんなに穏やかなのにね。
そこに釘崎達が突っ込んできた、と冒頭に戻るのだ……。
えっと、私の所持してる用紙は4枚。これは今日から最終的に何枚貯まるんだろう…。
意外と重い悟の愛情に体が重く感じた。