第8章 スキルアップ
66.微裏
『ごちそうさまでした』
カララ…、と引き戸を開けてお店の外へと出た。
悟はほんの少しだけドアの外に居てよ、と言って会計をしていた。出る際に見えたのは黒いカード。その魔法のカードでお支払いをしてました……金額は分からないけれど気を使って教えないようにしてるんでしょ。少なくとも一人あたり千円二千円とかそういうレベルではない筈。
カチコチに固まって緊張したままだったら絶対に味が分からなかった。なにか喉を通った、腹が膨れた程度だった。
でも今回初めて食べた回らないお寿司……、りっぱ寿司はディストピア寿司なんじゃないの?という、まずシャリから違い、ネタなんで異次元だった。私は人生で初めて本物の寿司を初めて口にしたのである。ヒンナ。ものっすごくヒンナ、ヒンナ。
カララ…と音を立て暖簾を片手で捲りながら出てきたのは悟。
「おっまたー!」
『ごちになりました!』
「んー?いえいえ。喜んで貰えて僕も嬉シーサー!」
ドアを締めた悟を見やり、私は携帯を取り出した。壁紙の大トロをじっと見る。実物の方はもうお腹の中に収納済み。
『君を忘れない……』
「何?チェリーでも歌ってんの?
あー…もしかしてさっき食べたやつ~?」
私の携帯画面を覗いて察した悟はケラケラと笑った。
何故食べ慣れてんだ、と数歩進むと店主が出てきて私達にお辞儀をして暖簾と張り紙をしまって店内に戻っていく。
……特級呪術師凄いんだな、こういった寿司も食べ慣れるんだ…、と携帯をしまい悟を見上げた。
『もー、ほんっと何度でも言っちゃう。ごちになりました…』
「フフフ…どーも!キミがそんなに喜んでくれるなんてね。もっと早く来れば良かったねー。
で…どう?初めてのザギンのシースーは?」
『very delicious!ヒンナ、ヒンナ!』
感想を言いながら悟にビッ!とサムズアップすると、同じく私へと返す悟。ウインクを添えて。
いやー…しかし本当に美味しかったなぁ!にこにことしてしまいそうなのを両手で口元を抑えて夢のようなひとときを、記憶を反芻する。
「はい、ハルカ」
差し出された手にまた手を重ねると悟は目を細めて笑う。
お腹も手もなんだか幸せだなぁ、としばらく進めば悟は短く笑ったので私は信号待ち前方の横断歩道から悟を見上げた。