第8章 スキルアップ
場所は銀座。チョコレート専門店を横目に悟好きそうだな、こういうの…と悟を見上げた。
時々進行方向を見ながらも私を見ている。悟の好きそうな店舗だってのに視線は行かずに私だけを見ていた。
「ホントは営業時間夜なんだけれどね、我儘言って昼に予約を入れたんだよ!」
夜?というと、居酒屋とかかな?
部屋飲みする事もあるからそれを今回のデートに取り込んだのかもしれない。
あっ、ちらし寿司の所はどうなんだろう?あの時は制服を着てたからお酒飲めなかったんだった!夜やってたしそれっぽいや。
『それってこの前のちらし寿司んとこ?』
「いやいやいや、あれは回らない銀座のって事でネタでやったの」
『あれやっぱりわざとかよ!』
今更ながら知った事実に突っ込んでしまった。あれは言葉の裏を突いてやったのか!回らない寿司=ちらし寿司っていうネタ。寿司だけに…これは口に出さないでおこうか。
でも……。
『でもあのちらし寿司美味しかったから文句は言わないかなー』
「ねー?結構良かったよねぇ、また行こうか?
…ほら、着いたよ!」
随分と外装が和でこだわり尽くした寿司屋。店舗まわりに竹が植えられ、飾りの手水がある。自然とではない、従業員がおもてなしで浮かべたのだろう、季節の花が浮かべられていて私はほー、こういうのもあるのか、と思わず写真を撮ってしまった。
店舗には暖簾が下がり、入り口の引き戸には張り紙が貼られている。
──"本日貸し切り"
それを見てしまった私は固まってしまった。まじかよ。するって事はこの店にわざわざ貸し切って寿司ランチするって事なんでしょうか、五条悟さん?
『あのさ、寿司屋って言ったよね?』
「うん、言ったけど?」
『これ回らないやつ?もしかしてちらしじゃないやつぅ~?』
「うん。あれ、もしかして気分じゃなかった?嫌だったら断って別の店舗にするけど?」
私は首をぶんぶんと振った。目の前まで来て断ったら失礼だし。私の想像上の店主が頑固なガチムチの顔つきがデューク東郷で眉間の皺が増え、青すじがピキッていく。予約しておきながらキャンセルだと…?とキャンセル料の代わりに俺の銃弾をぶち込まれてから帰るんだな、と殺られそうだ。