第8章 スキルアップ
「決めた!明日は僕とデートねー、本気出して行こう!
その前になんだけれど…」
あぐらを崩して膝が床にゴ、と当たる音。
前傾姿勢は今じゃ私に食らいつきそうな獣そのもので、私は苦笑いを零しながらに座りながら仰け反った。
「──ビーフシチューやバゲット、サラダにプリンよりも先に食べるべきものが目の前にあるよね?」
『な、なんの事でしょうか……?』
「もー…とぼけちゃって。本当は分かってるんだろ?」
よつん這いに私に迫る悟は、ひた…と片手が更に私側に進む。
私の両足はもう悟の領域。いや、上半身も既に範囲内。逃げ切れないのは分かってる。
どくどくと心拍音が主張してこれからの行為に期待をしてる。理性がおかしくならないように悟から逃れようとしても、結局逃れられないのが頭では分かってるからこそ、このやりとりは少し引き伸ばす行為だと理解してる。
『どうせ夜するなら今じゃなくて良くない?弱火とはいえ火着いてるし先にご飯食べたいんだけれど』
「んー?時間帯的にもう夜だね、シチューも良く煮詰まって美味しくなるよ、きっと。
つまりは食前の運動として一回ヤッてご飯やお風呂済ませてまたヤるの!」
耳元で吐息混じりで悟が言う。ぞくっ、として身震いをした。
「数日間も俺を待たせたんだ、その分の埋め合わせはオマエにちゃんとしてもらわないと……」
その言葉に耳が。
触れられた…、服からまさぐる手が。
キスをして攻め立てる舌が。
甘く鼻腔から脳を融かすような香りが。
その本気の表情が。
──私の五感全てが悟に染まって。硬い床の上で五条と春日の一族同士が交わって。就寝前にも熱く解け合って。
深夜、ベッドの中。互いに下着姿で横になっていた。
ビーフシチューは美味しく煮詰まったけれど底の方が少しばかり焦げ付いてしまっていた。バゲットも焼き直しだった。それでもとろとろにされた身体には素直に美味しく感じられて文句ひとつも言えない。美味しいと上半身で感じながら下半身は悟との行為を終えて満足していて頭がどうにかなってしまいそうだった。