第2章 視界から呪いへの鎹
ハリアップ!と指先でくいくいと立つように急かされて、祖母の隣から立ち上がる。一応、術を解いてくれた祖母に感謝のお辞儀をして。
座ったままの祖母は、私を見上げる。
「ここに住みなさい、ハルカ」
かつての記憶、母がここを嫌がった事。そして父が私を攫われないように食い止めた事。両親がここに留まる事を拒絶していた。
ここに居ればその春日としての力を手に入れて、自分を守る術を学べるかもしれない。けれども、祖母の私への態度は家族としてではなく、血を存続させる為のものとして、愛情がないように感じる。
『……私は…、』
口ごもる私から、祖母は悟の方向へと視線を向ける。座ってるのもあるけれど誰にとっても背が高く見えるからやっぱり上を見ちゃうんだよなぁ。
「五条様、こんな時間です。よろしければ泊まっていって下さい。当家では質素なもてなししか出来ませんが……」
……祖母は私よりも悟を気にしている。
悟はうーん、と頬を指先で掻いて近付き、私の肩に手を置いて押した。玄関方向へと押していくつもりだ。
『あっちょっとっ、そうぐいぐい押すと転ぶって!』
「お言葉に甘えさせて貰って泊まっていこうかな。ちょっとふたりでデートしてくるから邪魔しないでね~!」
通された部屋を出ていく際に立ち止まった時。従者の龍太郎と祖母はこそこそと耳打ちをしているのを悟と共に私も横目で見て、その部屋を去った。
屋敷はとても広い。広いのに人がなんだか少なくて、静かで。今の所祖母と従者のふたりしか見ていない。喧騒から切り離された感が不安にさせる。
空を仰げば夕方が近く、青は赤に近い橙に染まりかけていた。