第8章 スキルアップ
60.
「なんだ…様子がおかしい…!一度こっちに引き摺りだす、もしもを考えていつでも祓えるようにしとけよ」
「言われなくともそのつもりよ」
動物番組で見るような、大きな獲物を引き摺る玉犬。か細い声を上げている全裸でガリガリの妖怪のような見た目の男。
釘崎とちょっと目を合わせて苦笑いをした。引き摺られてるからうつ伏せだけれど立ち上がったらさぁ…。見た所で露出狂じゃないけれどさ。
ぶるぶると震え(痛みか寒さか恐怖かは知らない)うつ伏せの体で顔を上げる男。腕に玉犬は唸り声を上げて食らいついてる。
そこで伏黒は携帯を取り出し、カシャ、と音を鳴らした。
「やはり、だ」
画面を見せるとうつ伏せのこの男。呪いや呪霊であればカメラに映らないハズ。となると肉体を持っているという事。
それは人か呪霊の受肉体…と補習で悟から教えてもらったことがあった。
ものは試しだと私はしゃがみ込み、ぶるぶるしてる男の髪が伸びっぱなしでぼさぼさの頭に私は手を置いた。
「あっ!みたらい大丈夫なのかよ!?」
虎杖の声ももっとも。
呪霊であれば呪力が触れたり触れられたりした相手を焼く。呪霊じゃなくてもしも人間なら怪我が治る。どっちにしろ触れてみないと分からない。
答えはどっちだ?と触れていれば、玉犬に引き摺られていた時に付けた擦り傷が修復されていく。少しだけチリッ、と燃えるような感覚はあったけれど体調に問題もない。私は顔を上げこの3人の中の玉犬を指揮していた伏黒の顔を見た。
『これ、人間だよ……』
「「人間!?」」
「でも呪力を感じたぞ!?」
確かに呪いの様に感知したけれど、今触れているこの男からはその気配が無くなってる。もしかしたら、さっきの燃える感覚が一瞬あったのって。
『さっき治す時に一瞬燃える感覚あったけれど、それが呪力を感知した原因かもね』
"ンー…ンー……ンアッ…!"
言葉を忘れたような発音の男。
睨むような瞳はやがて瞼が伏せられていく。その際にただ、一言。
「たす、けて……」
ガク、とそのまま地べたに頭を付け、気絶をしたようで。
はあ、と伏黒はため息をつきどこかに手招きしてる。方向を見れば少し離れた位置の車……伊地知。
ドアの開閉音を聞きながら、私は立ち上がった。