第7章 このリセットは強くある為に
58.激裏
ピピーッ、とタイマーが設定され電子音の鳴る炊飯器。
私はその場から脚を動かせない。少し濡れた手を布巾で拭い、それを近くに軽く畳んで置いた。この位置からはベッドが見えないけれど彼はベッドで待っているんだろうな。
この場から進んでベッドに向かったら。
処刑というわけじゃないけれど、いや…言い方を変えよう。食材がまな板に自ら向かっていくようなもの。嫌じゃないんだよ?初めても経験したし本当は嫌じゃないんだよ?と両手で顔を隠した。当然ながら手は先程までの明日の仕込みのせいか冷たく、また羞恥心から顔面は熱く。
「ねえ、まだー?」
壁などで障害物があり見えない先からの催促する声に、隠す手から顔を上げる。当然見える位置じゃないけれど。壁を挟んだ先にはこっちを向いて首を長く伸ばして待機してる悟が居るはず。
こちとら心の準備ってのがあるんだよ…と少しその声の方向を睨みつつ、ため息を吐き止めた足をゆっくりと向けた。
素足でひたひたと進んでいけば、じっとこちらを見ている悟。
「あらら、ハルカはノリ気じゃないのかなー?僕は超ノリ気なんだけど」
ベッドの上で上下クリーム色の緩めなスウェットを着て、携帯を操作する蒼眼がちらちらとこちらを見ている。
『ノリ気の割にゲームしてるし…』
「いや?これはただのデータ収集。それより良いの?ほら…電気消したりするんでしょ?」
視線が天井の蛍光灯を見ている。良いわけがない、見られる事には慣れてないから。ベッドに入る前に明かりを消そう、とベッドから少し離れた場所に私は移動した。
部屋の明かりを豆電球ほどに暗くし振り向くと、悟が携帯を二台操作しているのか、2台分の画面の明かりに照らされる悟の顔が見える。ライトアップされた悟の居るベッドに向かった。なんのデータ収集してんだか分からないけれど画面を覗き込む顔は少しばかり退屈そうだ。
側に寄っても画面へと視線を移すと私の携帯も同時にいじってる。さっきから何、人のプライバシー侵害しとんねん。
『堂々と人の個人情報見るなや』
「待って、もうちょっとで入力し終えるからさ」
何を入力してんだ、と不安になりながら見覚えのあるピンクの画面を見て把握した。
この人生理周期把握しようとしてるわ……。
『何ルナってんの!』