第2章 視界から呪いへの鎹
「それくらいの気持ちで良いと僕は思うよ。見えることがまず第一歩だからね、向き合う勇気があるのなら素晴らしいね~」
「先程から気になっていたのですが、五条様。孫とはどのようなご関係で?」
机の上で祖母はひとり指を組んで疑う視線を向けて悟に問いかける。気になるでしょう、そりゃあその界隈の有名人連れてきてるし。実態は最近絡まれたってくらいなんだけれど。
悟はククッ、と俯き笑って、祖母を見上げる。そして私の肩にまたも手を乗せた。
「恋人、って言ったらどうする?春日家は困っちゃう?」
『へっ?』
祖母は苦虫を噛んだ顔で、目つきはやや睨むように悟を見ている。
ぴりぴりとした空気が流れていて、生唾を飲み込んだだけで全員に聞こえてしまいそう。
「……それは困ります。代々我が一族に婿入りする婚約者として、女がより多く生まれる家から男を貰って女を産み継承する女系継承の春日なので。
ハルカの母親、リョウコも勝手に嫁に行っただけで私は嫁入りを許していたつもりもありません。最低限でも女を産めとそれで許したくらいで。
どうか、早い内にハルカから手を引いて下さい。五条家の血が穢れますよ」
「ふーん…血が穢れる、ね」
その返事が不機嫌なのを私は感じた。私はその会話には入れない、場違いな無知すぎる発言は慎むのがベストだと判断して、ちょっと冷めたお茶を飲んだ。
話を変えるように祖母は表情を真顔に戻し、私を見て手招きをする。湯呑をコト、と置いて祖母の言葉に耳を傾けた。
「ハルカ、お前に掛けられた忘却と張りぼての視覚を解く。私の隣へ来なさい」
静かに、指を組んだ手に顎を乗せて不気味に笑う悟の横顔を見て、私は立ち上がった。
部屋にどんと置かれた座卓をぐるりと回って祖母の横に座る。祖母の片手が私の顔に近づき、もう片手がまるで忍者の印を結ぶような格好で、私の視界を近付いていた手のひらが覆った。
カサついて年相応の手のひらは温かい。