第7章 このリセットは強くある為に
56.
私の領域から悟の領域と渡り歩き、やっと現実へと帰ってきた。赤黒い生命を感じさせない世界でも、世界の始まりや終わりのような全方向に広がる宇宙でもない、この明るい現実に帰れたという事にホッとする。
踏みしめる地面は少し脆くなったアスファルト。悟にしがみついていた手をゆっくりと離すと、頭上の男はにこ!と笑った。
その悟の服に滲む赤。もう一度腕に服の上から触れて私はその怪我を自身の式髪へと移した。怪我は治っても服の血液や開いた穴は治らない。首元が元より広めのトレーナーを引っ張って肩の怪我が完治してるのは確認出来たけれど、原因は私だ。
「そんなに服引っ張ったら伸びちゃうでしょー…治療、ありがとうね」
悟はサングラスを取り出して掛け、私の頭を撫でくりまわす。そのサングラス越しの瞳を見れば服を掴んでた手をそっと下ろし、服を整える。血の滲む肩を見て目立っちゃうね、と笑っていた。
『怪我、させちゃった。私が…あの人達をどうにも出来ないから、』
「怪我なんてつきものだよ。それに怪我したらキミに触れて治してもらえるし……こんなにも心配してもらえるしっ!」
『そりゃあ心配もするよ、そんなに血を流せば…っ!』
まあまあ、と私の頭を更に激しく撫で回す。
『あーっぐしゃぐしゃになる!犬じゃないから喜ばないよ、そんなにされても!』
束ねた髪留めを外して結い直す。
視界に入る髪は高専に来る前に染めた所以外、地毛になっていた。
しっかりと結い直すと悟は腕を組んで少し頭を傾けて私に質問をした…いや、質問というよりも感想を求めてるっていうか。
「ところで…どうだった?初めての領域展開は」
どうもなにも無い、もはや地獄を呼び出したものだった。
先人達の一部が残した手記のおかげで前情報を得られたのは良かったけれど予想以上の世界観。
『もっと青空とか花畑だとかファンタジー感あったほうが良かった。おどろおどろしすぎ。それに…──』
自身の生みの親がああも一族に扱われてるだなんて。それは結構精神的に来るものがあった。
「まあまあ、ああ見えて強い呪霊とか巻き込めば助けてくれるよ。今回は試しに弱い呪いを引き連れていったけれど、あのひとりひとりがキミの味方だよ、彼女たちが昔からの決まりで春日一族のキミには手は出せないんだから」