第6章 "愛"も止まらない!
50.
背後でタクシーが遠ざかっていく音。
悟の引いているキャリーバッグの上部に、この家から借りてきたものを詰め込んだバッグを乗せている。キャリーバックは転がすだけだから持ち運びは重くはないからと、そのまま悟が引いている。
私達ふたりはただ立っていた、門を目の前にして。悟は片手を腰に当て片足に体重を掛けて。隣の私は腕を組んで。
「さて。来たねー」
『ん、来ちゃったねー…』
はは…と苦笑いを零すタイミングで門の向こう側からカチャカチャと音がする。ギィ、と軋む音と開けられる門。門の向こうに見えるのは門を開けた龍太郎とど真ん中で威圧感を出す祖母だった。
静かだからタクシーのタイヤの音で分かったのか、カメラでも設置してんのか、それとも呪力的なものか。連絡もしてないのにここに居る事の発覚が早い。
この回りに民家もない、ただ一軒だけの屋敷。風も止んでいてあまりにも静かすぎて不気味。
そんな静かな状況の中、ここに居る4人の中で始めに口を開いたのは祖母だった。
「……これはこれは。一体何のご用で?」
『借りた本を返しに。それからもうとっくに知ってると思うけれど東京の呪術高専に通い始めたって報告と、東京から京都へ学校は移さないって事を言っておこうかと』
祖母が着ているのは決して派手ではない和服。
ふん、と鼻で笑うと祖母は屋敷の方に体を向きかけ、私達を振り向いた。
「ここでは長話になるでしょう、中へ。
連絡があれば丁重に持て成せましたが……明日まで滞在なさって下さいませ、五条様」
私と悟はアイコンタクトを取る(アイマスクはしてるけれど)
この人そんなにキレてない。流石に時間経ってるだけはあるけれどさ。
私から視線を外した悟はキャリーバッグの上の荷物を持ち上げた。
「うん、そのつもりだから宜しく!断られたらその辺の旅館泊まってたよ!あ、龍太郎君、これ"持ってって"」
悟が龍太郎を呼んで差し出す。彼は察したのだろう、それを抱えて屋敷内へと入っていった。
祖母は私をじっと見ている。それは顔の位置だけれど顔を見ているわけじゃない。髪の白髪具合を見ているんだ。
「ここに住みなさい、ハルカ」
やや憐れむような視線。それは私への失望だとか表情で分かる。