第40章 悔いのない人生を
『……ねえ、悟』
「ん?どうしたの、マイハニー」
……そんな事、結婚した序盤に言うか言わないかで話し合いを重ね、結局言わなかったけれど、しれっと普段から言ってるように聞き返されてさ。
ハニーって私をそう呼んだ事を聞き流したいけれどもそこは遅れて『そう呼びあった事ねえだろ、喜久福』とツッコんで恐らくは頬を膨らましてる悟にぎゅっとしがみついたままに彼に聞きたい言葉を探す。
『悟は人生で一番楽しかった事って何?』
「傑と徹夜でゲームした事とかかなー」
『チッ…、空気読めんのか、この男は…!
じゃあいいですぅ~、私の一番楽しかった事は、芥通信社で働いてた時に飲み会の二次会で山田さんの歌声聴いたことかなー!あれはめっちゃ上手かった!』
「やだーー!僕以外の男の思い出言わないで!
ごめんなさい!嘘ついてました!僕の人生で一番楽しかった思い出はハルカとのデート……沖縄に行った時ですぅ!」
耳元でギャン!と叫ぶ悟に嘘だった事くらい私も見抜いてた。意地悪も程々にしないと、このきつく抱きしめた身体も離されたらおしまい。
くす、と笑った後に私も人生で一番楽しかった、悟との日々についてを語れば悟は嬉しそうに笑って、話題が尽きる事なく話は続けられていく……。
──私達のこの出会いは必然だった。突然の奇跡なんかじゃない。
恋に落ちたあの日のように、身代わりの一族の末裔となった私と呪術界の最強である五条悟が終わりの領域"鎹"の奈落へ、絡み合った私達は故意に堕ちていく…。
今向かってる場所、堕ちていく頭上の先は死んだものが逝く場所なんでしょう、きっと…。
朝が来れば日が昇り、夜が来れば日が落ちるように、生きていた私達の死後の魂は同じタイミングできつく抱きしめあったまま、死者が逝くべき場所へと向かってる。
どこまでもどこまでも、何時間も何日も、何年も掛けて……。身体の無いむき出しの裸のような魂の私達。
どれだけ話そうとも舌が乾くことは無いから、お茶のないとても長いお茶会は続いていく。飽きずに思い出とあったかも知れない結末を終点に辿り着く、その時まで二人でずっと語り続けて……──。