第40章 悔いのない人生を
落ちる時って身体が無くっても頭からなんだな、と冷静に考えながら落ちる感覚も風も全身に感じないけれど、びゅおお…、と耳に空気を切る音が聴こえるのだけは絶えず続いてる。ノイズよりも酷い音……だから落ちてるのは確か…なんだよね。
何もしないでその終わりをただ待つだけか、と瞬きしてもしなくても暗い世界で、止まった世界から今度は終わらない落下の世界を味わうのか、と私は眠りに着くようにただ瞳を閉じた……。
「──なんだ、まだこれからだってのにもう現実逃避?」
『……え……さと、る…?』
真っ暗闇の中で彼の声がする。幻聴にしては随分とでっかい声量で、見渡すも目を閉じた時と変わらず暗闇ではなんにも見えない。これじゃあ瞳を閉じても開けても一緒じゃん、と思いながら。
ただ身体が動かしにくい中で耳元で風を切る音と一緒にクククッ、と可笑しがる笑いを聞いて二度もこう聴こえるのならこれは幻聴じゃないのではと思えてきた。
「……僕が見えない存在っていうより、この闇で見えないって感じか…そっか、オマエの眼じゃ僕は見えないんだっけ!」
『悟、そこに居るワケ?』
「ああ、居るよ。キミが僕の事を大事に抱きしめて落ちていったんだ、今は領域からの解呪で僕の姿形は元通り!僕がされてたように今はハルカの事をぎゅーって抱きしめてんだけど……分かる?」
閉じた瞼を開けても一切の闇の世界で目の前をじっと見つめる。少しの明かりもないのだから、完全な黒に塗りつぶされた世界じゃ目立つ髪色も見えやしなかった。
多くの感覚を失った魂だけの存在では、悟の事は唯一耳でのみ感じられる(身体が動きにくい、も感覚といえばそうなのかもだけど)
六眼を持つ彼のように闇の中でも感じ取れるワケでもない私は首を振って見せれば、その私を見たらしい悟が「そっか」と少し寂しそうに呟いた。