第40章 悔いのない人生を
片手を「よっ!」と挙げ、笑顔でこちらに近付く鎹。
「皆を連れて来ちゃった!」
『……鎹、大きくなったね』
「そりゃあママが死んでから五年も経つし!私だってママを見習いたくさん食べてますし~?成長期だもん、身長が伸びないワケがないでしょー?」
『五年…?そっか……!じゃあ、十四歳になるのかな?』
確か、九歳だったかな…、あの頃は。
有り難い事に記憶がある状態で加齢を重ねないからボケ無いことはいいんだけれど。
撫でる位置がかつての胸下にあった頭が、大幅に上の位置になってる末の娘に手を乗せ、ぐりぐりと撫でてみた。体温は感じない、そりゃあ肉体を持たない私だから、例え触られても物らしい触感は無いのを私は知ってる。
「ん、そうそう。兄弟ん中で私だけまだ一般的義務教育の真っ最中!」
『ははは…、そっかそっか……』
視界の端でそわそわする子供達に混じって特に落ち着きのない人が見える。
その悟よりも身長を越してるように見える、大人な姿の子供達。
『蒼空、夕陽……、おいで』
手招くと父親よりも先に指名されていいの?という少し嬉しそうな表情の後にショックを受けてるらしい動きの彼を視線で見て、皆して悟を無言で指差していた。
分かってるよ、私の一番の再会したい人物は悟。でもね、楽しみは最後に取っておくべきであって、今は成長した子供達にそれぞれ何も言い残せずに逝ってしまった事を詫びるべきで……。
ひとりひとりに向き合って、一言ずつ言葉を交わした後にやって来た家族の最後のひとり。ぽつんと一人、花束を手に持ってそわそわしてる悟を向いた。
『……悟』
「ふー…やっと僕の番だねえ~…」
待てをしていた犬が名前を呼ばれたような、一瞬ぴくりと反応した後の満面の笑顔。早足で駆けつけて両手でガサ、と花束を差し出してきた彼。
悟に差し出されたにはその花束を受け取るけれど、花束その物の温度も触感も手には伝わらない。でも目で"持っているんだ"と腕の中のものを実感して。
至近距離でその花束を覗き込めば、見慣れた青と白の二色の薔薇。白が多めのその彼のメッセージが込められた花束は特別な日に贈られるもので、やってきた今日は現実では何の日なのかを理解して……。