第40章 悔いのない人生を
家族みんなが幸せに生きているのならそれでいい……。
もしも、悟が素敵な人を見つけ、恋に落ちたのならば…。それが彼のこれから先の幸せな生になるというのなら、その人と一緒に生きて欲しい。死んだ私はもう、何も言えないから…浮気だとか、責める事も。私だけを愛して、だなんて呪いも吐けない存在なんだし。
『(……ああ、悟に逢えないだなんてね。生きてる人が恨めしい…かも、)』
一応はさ、満足した生であったけれど。
悟とのこれからの人生を一緒に歩めない事が出来ない事は悲しかった。死後硬直までしっかりとした確定した死を彼からぶん盗ってまで私は死ぬことを選び、彼の生を願ったけれど。
……ありがとうは伝えられたと思うけれどごめんなさい、とは言えてない。そもそも、あの時に録画したものも停止して見返してくれてるかどうかも私は結末を知らない。保存せずに消されたならば、私の言葉も呪いも無駄になる。残した想いも……。
本来ここでは要らない、生きている時の無意識な呼吸のくせでため息を吐いてみせる。
私は皆と違い死んだ時点で顔を隠すことなく、また懐かしい着物を着てた。多分、それは五条家に嫁いだ女となったから春日家としては特別な待遇なんだろうけれど。
──なら、私の母も父の家に嫁入りしたんだからみたらいの人間としてなんらかの変化があるだろうに。
いや、私一回目死んだ時白装束だったし…。そう、母の居る方向を向いた瞬間。
枯れたような空間、乾いた空気を満たすような呪力が瞬時に行き渡る。例えるのなら、生命力・活力…そういったモノが吹き込む風に乗ってやってくるような。
なんだ、と驚く私やざわつく周囲の春日の女達。
それもそうか、乾いた呪力を満たす存在が現れたというのなら、ついにその時が来てしまったという事。
変化の乏しいこの世界ににっこりと得意げな笑顔をした、成長した少女が先頭に白銀の髪の人達。大きくなった子供達にひとり、私の最期に冷たい身体で眠った顔を見たきりの、少し年を重ねた逢いたくて仕方のなかった人……。
いくつになったんだろう?本当にどれくらいの時間が現実では通り過ぎていたんだろう。すっかり成長して見える、懐かしい顔ぶれに私も声が出せなくて。
得意げな顔して先頭に立っていたのは鎹。あの子は初代の術式だけじゃなくあの子自身の才能もあったんでしょ。領域展開は鎹がやってみせたものだった。