第40章 悔いのない人生を
見えないモノが私達の足元の奥底で拡大し続けている。
生者が持ってくる呪力……私が以前領域にせっせと持ってきていた"お土産"となる呪力はとっくに使い果たし、今は魂を留める要素となる春日家の呪術師の死後持ち越した膨大な呪力を使って、大地の下の見えない奈落をせっせと拡大していた。
多分、この世界で一番持ち込む呪力が少ないのは私。皆は地毛が全て白に染まるまで……もしくは溜めている最中に盾として利用されるなどしてここに死の直前の呪力を持ち込んでいる…嫁入り道具みたいにさ?
私は持てる全ての呪力と生命を以って悟に残された寿命を移し、彼の死を貰ってここにやって来た。魂が呪力によってここに縛り付けられるとしたら、私は最低限の絞りカスみたいな呪力を持ってきたんでしょう。それなのに真っ先に消える事の出来そうな私でも、ここの人達を束ねるバトンを受け取ったからにはこの場での末代として仕事をしなければいけない。
いや、どんなに嫌だとか死ぬならきちんと成仏していつか悟と次の生で会えるような、まっさらな存在になりたくてもさ。やるべき事…初代に託された責任を果たさなきゃいけないんだ。
ここに来て、空間にばらまかれた呪力を使用後、春日の女達を三人開放し終えた。
春日の女の三人の生命の成れの果てはススキや小石となり、その形状になる寸前まで呪力だけをどこまでも続く、足元下の空間を広げるのに彼女達を使いきった。距離を測る道具なんてないから横に広がる大地のあるかどうか分からない繋ぎ目の範囲が狭くなったとかは良くわからない。
物を置いて計るだとか、昔の人間のように歩数で計るだとか言っても、まるで子供の遊びみたいになったし、私も母も頭が良い方でないし。みんな馬鹿ばっかというか、愉快な仲間たちっていうか……。
やることはあっても寝食も要らない、肉体の無い状態。休憩なんて必要もなくただただひとり、結果の見えないものの為に私は働いていた。長時間だろうけれどもちろん時間の感覚なんてとっくに死んでる。
『……ここでこうしてる間に現実ではどれくらいの時間が経ってるのかなあ…』
悟はどうしてるんだろう?ちゃんとご飯を食べてるかな?子供達をいつもの我儘とか変な事を口走って困らせていないかな……?
子供達、皆いい子に育っているから成長と共にグレる事は無いと思いたいんだけど…。皆、悟と上手くやれているかな…。