第40章 悔いのない人生を
その母の言葉に、私はこの場に強制的に存在をすることを余儀なくされた女達以外の物言わぬ存在に視線を移した。
ボロボロの墓石は、ススキは、棺桶は、小枝や石たちは……それらはもしかして。無の世界で作られないというのなら別のもので作られてるはず。呪力は僅かに感じる事が出来る、五感とかじゃなくて呪術師としての能力はそのまま持ってきてる…まあ、領域内で戦えたのを見ると私もそうだよね…。
その視線を私の言葉として受け取ったんでしょう…。母は呆れたように言った。
「ちゃんと初代の娘の代から順繰り話は聞いてたからねー…ここに連れてきた呪力を持つ人間・呪い…、それらからも搾り取ってここは存在して。呪いならそのまま消えるとしても連れてきた人間の魂も私達じゃなくともここに縛られてさ……。
この世界が在り続ける限り、人ではない"物"としてその命はここで存在を許されているのよ、私達は特別動き回ってるけど」
またひとつ、ここで新しい事を知れたけれど、これを今を生きる現実の娘たちに伝える術はない。私のように"髪降ろし"を出来る子も居ない……来ないで、とかなるべく領域展開を使用する場面にならないように、そんな言葉を伝えるにもただここで彼女達を待つしか方法が無いんだ。
その間、ここでただ何もせずに待つんじゃなくて、何か進展のあるように呪力を消費するようにしなくちゃ……。
私はそこまで考えて、うん、とひとつひとり頷いた。ここをどう管理するかは私が権利を持っているから、他の女達もどんなに嫌でも協力せざる負えない……というか、彼女達も始めこそは死後もまだ世界があるのだと思っていただろうけど、その死後の世界では終わりが見えない、生命維持の要らない時の止まったような日々に流石に飽きもしてるんじゃないのかなって。
領域内を呪力を使用して広げようとする力はある。けれども縮めようとする事は受け継いだ権利にはない。
枯れた大地の上、右も左も、前に進もうが後ろ向きに進もうがどこかから大地はループしていた。これが無に生み出せる唯一であろう、呪力の大量消費方法。横に大地を広げても…、また上空に広げても空へと行く術なんてないし。これ以上どちらを広げても意味はない、と思うんだよね……。
自然と無の世界の基盤となる、今足を着ける枯れた大地を思えば、この砂を踏み固めたような地面の下はどうなってるんだろうと、母を見つめる。