第40章 悔いのない人生を
「ハルカ、あんたは現実に私含む、ここの領域内の誰かを呼んで簡易的な領域展開のようなものをしてたわね?」
『まあ、母さんとか鎹とかね…祖母のヨミとかも。してましたねー……』
「……それ、領域を消すのに大正解だったワケ」
『ほわっつ?』
どこが?と先程までの話と私がしてきた事の繋がりが理解出来ずに聞き返す。
それを説明するに母は自身の胸元に手を当てていた。なんだか誇らしそうな表情なんてしちゃって。
「魂というものは本来見えないもの。呪霊とか怨霊だとかとは少し違うものなの。
人は死後、魂はあるべき所に逝くらしいんだけど、私達は領域に魂を留める事が出来る。それはね、死ぬ際に持ってる呪力をこっちに持ってきながら、魂とその人の呪力で形を留めてここに在り続ける事が出来るってワケ!
……つまりは、この元は無の世界は呪力を持って維持され続ける……生者である一族の末裔達が領域展開をするでしょ?
ねえ…、ハルカ。領域展開の時の条件と現実に帰った時の事を良く思い出してみて?」
『……』
思い出す。領域展開を使う時、それは呪力をある程度溜めた状態でのみ、という事。そして帰る時には蓄えていた呪力はすっからかんになるって事。
母の言う事が段々と理解出来てきた。この魂を留める領域は、空間を維持する呪力が無くなってしまえば、呪いで縛られた魂もいずれは開放されるんじゃないかって…。
低木に視線を向ける。かつてこの日の沈まない世界を途方も無い時間を、死後も"生き続ける"事になってしまった、初代の鎹の成れの果て……。一番ここに長く留まっていた孤独の魂の今の姿…。
それだけじゃない。確か見間違いじゃなければヨミも術式の強制譲渡の際にその場に石のようなものになっていた気が…、
……"無"の世界って言ってたな…。