第5章 "好き"が止まらない!
「いってらー!」
『んっ!行ってくる』
背後からの虎杖の声に背中を向けたままに片手を上げて返事して、私はたったひとり駆け足で昇降口から入っていった。
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こういう学校にありがちな室内履きではなく土足で校舎に入る背徳感。暗闇の中の学校という恐怖。
速歩きでツカツカと自分の足音だけが響く静寂の中、ヒタヒタという少し水っぽいような足音を聞く。じっと廊下を見れば呪いが動いた後が目視出来る…、本当に最低限の知識なんだろうけれど補習のありがたみを感じた。
……けど、私ひとりを行かせるってのはどうかと思うんだけど?
『……馬鹿』
もうちょっと、そこの角まで悟が着いてきてくれるとかあればなぁ。我儘言ってる場合じゃないか…実力が伴えばやがては単独で任務をしないといけない時もやって来るんだろうしねぇ…。
廃校の図書室、ドアが空いている。
そこから見える、壁に手を着き廊下側に顔を出している呪い。その手を掴んだ。
「ヴォアアアアッッ!」
耳が痛い程の悲鳴を上げ、私が触れたひんやりとしたモノは炎が延焼していく。
"呪力は見ようとすれば見えるものだよ、ちなみに僕は術式が見えるんだけど凄いでしょ?"と補習中に言っていた事を思い出す。
それは私の呪いに触れている場所。最低限の防御から呪力が鞭打つように、呪いを叩き、巻き付く場所から火が吹き出ている。
ジュウウ…、と焼け落ちた物を足で蹴散らすと、その燃えカスはさらさらと消えていく。まずは一体目を祓い終えた、と図書室を覗き込んだ。
図書室専用のフロア材。ガラ…と少し立て付けの悪い引き戸をこじ開けて室内にと入る。
コツ、コツ、コツ…。
私のブーツの足音を鳴らす中、奥に気配を感じる。
覗き込むと三角座りの細い呪い。顔を上げて黒い涙のようなものを垂れ流していた。