第40章 悔いのない人生を
私も前回と同じように皆と変わりない白装束姿だと思ったんだけど。領域の支配権が私が死んだ事によって、初代の鎹の遺言通りに即座に切り替わったのか、母がやったのか。私の着ている服はこの世界でも分かる鮮やかな色をしていた。
実際は夕日の色で別の色に染まって本来の色よりも濃く、そしてその色には見えないのだけれど、良く知った扇柄で理解した。脳裏に太陽の下で映えるその色を思い出しながらひとり、傍らで微笑んでいた彼の顔も思い出す。
今、着ている服は縹色の着物。
五条家に嫁ぎ、私に合うからと着させて貰い、私用で他にも着物を持たせてくれても結局気に入ってしまった、あの五条家にしまわれていた和装。
どんなにオレンジが別の色に染めようともこの柄が、着心地が春日家でもみたらい家でもない、五条家の女としてここに居させてくれる安心感を纏わせてくれている。
物を持ち込めない世界でのこの奇跡は私にはとっても幸運で嬉しかった。
着物ごと自身を抱くようにしていればそんな私に近付くのは母。ぺら、と自身の顔を隠しているものを捲って、白く濁った瞳で私にウインクをして見せた。
「随分若く死んだわね~、私よりも年、食ってないんじゃないの?」
『……うん。悟が死んじゃったから、私よりも呪術界が悟を必要としてるのならって、私の生命と引き換えに蘇らせたんだー……だから、彼の死は私がここに持ってきたんだ』
……これから先、私が生きるべき年月が彼の止まってしまった生命にプラスされてる。悟には私の本来の寿命…いや、それ以上に私としては長生きして欲しいけれどさ?完全に止まった生命よりはその数十年生きて貰える喜びが勝る。十二月七日から先へ、悟には進んで貰いたかったから。
にこ、と微笑む母の唇を見た。
「……そっか!身代わりになりたいって思えるくらい、あんたを相当惚れ込ませたんだね~…あの女誑しもうちの子で変わったのなら、私も鼻が高いよ」
『女誑しってねえ……』
「だってそうだろ?ハルカに出会う前はとっかえひっかえ遊んでそうなボウヤだったもの!」
過去の悟はそうだったみたいだけどさあ~……実の娘にそういうデリカシー無い事言うか?と、母をジトーっと見れば、思い出したように母は周囲を見て、片足に重心を掛ける体勢で笑顔を絶やさず話す。