第40章 悔いのない人生を
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私はもう二度と助からない死に方をした。
一度死んだ時も本来ならば助からない死だった。けれどもその時は不幸中の幸い、様々な要因があって事の生還を果たせたんだ。諦めずに私自身を治してさ、殺された身体を術式で時を停め、身体を治し、諦めない彼の意思で蘇生を行われて。身体が治っても私の意思は領域に一時的な死の中で生に目覚めるのが遅くなってしまったけれど生き返って……。
あれは奇跡だった、信じられないくらいに私は恵まれていた。
前回がたまたま良い結末だっただけで今回は流石に駄目だと理解してる。
極ノ番、生死ノ天秤…。私の天与呪縛と同じ名前の術式で天秤のように相手と私の状態を入れ替えた。どんなに生存する事が無茶な状態でも、私と引き換えに悟を生き返らせたんだ。肉体がバラバラだろうが、死後何日も経過していようが……。たった一度、最高の奇跡をプレゼントする事が出来ると分かっていた。
──もしも、私が死ぬことがなくてピンピンとしてる未来があったなら。
生き返った彼と視線を合わせたのならば「随分と無茶なことをしてくれたね!」と怒りながらも「ありがとう」って懐っこい笑顔を見せて抱き寄せてくれる、こうならなかった場合の世界を想像して迎える事の出来なかった、死後の夕焼けの世界で空を見上げる。
後悔は全く無い、といえば嘘になるけれど。身代わりの一族と言われた所以に沿った死に方をした。これで良い、これで良かったんだとやり遂げたような、達成感のような死後の世界。悟さえ生きててくれれば良いんだあ……私。
自身が死んでからのこの春日一族の死者が集まる領域に来るのは二度目。
前回みたいに始めから顔を隠すものがあると思っていたら、それは遮るものはなくクリアな視界。鏡なんてないけれど、顔を隠していないのはどういう事だ、ととりあえず私がしばらく来なくて、母がこの領域内で何らかの事をした後の世界を見渡す。
周囲にぞろぞろと集まるのは白装束の女達。以前と変わらず、と思いたいけれど違和感を感じることは出来た。その中で視界にちらちらとこの世界には鮮やか過ぎて気になるモノがあったので、自身の腕をすっ…、と前へと伸ばした。釣られて腕を覆う衣服が目に映る。
『これ、は…』