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【呪術廻戦】白銀の鎹【五条悟】

第40章 悔いのない人生を


僕は鎹をじっと見つめてふう、とひとつ息を吐いた。
どうしてだろうね、あんなにも長い年月を共にして、朝から晩までキミを五感で識って、外側だけじゃなく彼女の中まで知り尽くしたと思っていたのに。
笑顔は遠目だと覚えているけれど、細かい所がはっきりと覚えていない。大好きだった彼女の香りも記憶だけじゃ思い出しきれず、デートの時に着けていた彼女が遺していった香水をたまにプッシュしてハルカを認識してさ……。

声は、最期の言葉があるから。彼女の僕に向けた呪いはきっと、誰にも解呪なんて出来そうにもない。

「僕はずっとママだけを愛してたんだ。だから死んだから、この世に居ないからなんて理由で新しい人をこの家に迎えるつもりは毛頭ないよ。
だって寂しいでしょ?僕が大好きな人をみんなが新しいママだって認識した人で塗り替えるなんて…、」

どこから話が行ったのか。大昔の僕の幼馴染み、許嫁のあの子が「もう一度逢えませんか?」と僕にコンタクトを取ろうと手紙を寄越した事があった。
返事は返さないし会うつもりもなく。それでも待ち伏せされて一度立ち話をする事に強制的になってさ。
強制エンカウントだ、縋るように「私にチャンスを」「悟さんを愛してるんです!」「あの人が死んでしまったんでしょう?子供には母親が必要のはずだから…!」としつこく僕に付きまとった。子供達にもエンカウントしたらしいし、二度目は無いと忠告してる。
子供達から僕のハルカを愛せない女で塗り替えるなんて絶対に有り得ない。

──絶対に誰とも再婚するものか。

結婚だけじゃない、これから先の残された人生に恋人ですら新しい人は要らない。
僕の全てを捧げられるとしたら、それはこの世界にはもう居ない、死んでしまった彼女にだけ。ハルカが死んだ時に一緒に僕の心も領域内に持っていかれてしまったみたい。もうここには新しい恋の出来る心は無いんだ。
だから自身にも、娘にも言い聞かせるように。娘の背後に見えない彼女が居るような気もしながら…。

「僕はもう、新しいママを貰う事はしないよ、決して」

そう言って娘の髪をそっと撫でる。皆してお揃いの髪は日の光を受けて、キラキラと眩しく輝いていて。愛おしさも含め、僕は瞳を細めて末の娘と彼女の面影に笑った。
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