第40章 悔いのない人生を
少しずつ立ち直る僕は暮らしや心に余裕も出来てきた。前に進むことが出来始めたんだ。
ウッドデッキにあぐらをかいてのんびりと日向ぼっこして。近所から迷い込んできたブッサイクな赤トラの太った猫を僕の脚の中で丸くなった所をのんびりと撫でていた。彼女も猫みたいだったなー…なんてジジイみたい?
まだまだ僕は現役ですけど?爺さんって呼ぶには超早いよねー……まだ四十代ですし?
今日は家に夕陽が一緒に来てる。
家には高専に通う前の義務教育中の子が四人、休日だからってのんびり過ごしてて、そのうちの今一人が友達と遊んでくるって家から出掛けてる。
呪術界も色々と変わってきたんだ、僕の生徒たちは皆優秀だから、昔の錆だらけの歯車も新たに変わり、面白い変わった部品が追加されて呪術界に新しい風が吹いている。若者たちも消耗品ってワケじゃなくなってきたしねー…、制度も随分と良くなった。
僕もまだまだ力は残っちゃいるけど少し先の引退って言葉を見据えて、行動したい所……という考えをしていたら、僕の隣に鎹がよいしょ、と腰掛ける。
リラックスしてた猫は細い目をくわっ!と開いて、威嚇しながら僕の膝上からロケットみたいに逃げていった。
「こうもぼーっとしてたらボケちゃうよ?」
「うわっ、グッサー!自分の父親をボケ老人扱いしちゃう酷い娘なんて僕に居ましたぁ?」
胸を抑え、鎹から少し仰け反って大げさに見せつけると冷ややかな視線を送りながら、玉犬の白銀を撫でる。猫と犬は仲が宜しくないもんね。逃げた時点で玉犬を呼んでるのは知ってるけどさ……。
わざと傷付いたフリを止めて隣の大きな犬と触れ合う鎹を見る。一番下の子である鎹は来年中学一年生。大きくなったなー……なんて、子供の成長に喜んでいると、三年前から僕やこの家から欠けてしまった、ハルカと同じ瞳をこちらに向ける。
「──パパはさ、再婚しないの?」
……その娘の言葉にびっくりしたよ。少しだけ間を空ける僕は鎹を観察するようにじっと瞳や表情から目を離さない。
「鎹。オマエは死んだママの事が嫌い?」
「嫌いじゃないよ。大好きだった。今だって…──」
「ん、僕と同じだ、ママの事僕も大好きだ!……じゃあ、なんでパパに新しいママを貰わないのって聞くのかな?」
……そうとは言ってないけれどさあ。責めるとまでは言わないけれどどうしてか強めに言っちゃう。