第40章 悔いのない人生を
しょうがないな、という雰囲気か。あちこちの席でカチャカチャと箸や手に持っていた食器を机に置く音。椅子を引く音。そして僕に駆け寄っては皆でぎゅうーってしがみついて。
決して涙は枯れないけれどそれでも皆の優しさとか暖かさとか。家族の愛情に満たされて僕は両手に家族を抱き寄せる。
……温かいなあ。キミの体温はここに無いけれど、少なくとも血を繋ぐ子供達からキミとの絆を仄かに感じてなんだか身も心も満たされるよ。
「でも、皆がこうしてくれるから、寂しいのはちょっとだけだよ。皆、ありがとね…?」
パパの事、好き?と聞けばみんなが好き!と即答する。大きな子はちょっと照れくさそうだけれどね…?誰もが嫌いなんて言わず、好きだと言葉や態度に表わしてくれる僕らの自慢の子供達!
こんな子供達の前で父親である僕があまり落ち込んじゃ駄目だな、とちょっとだけ立ち直ったのはこの食卓での事。
……それからはさ、元通りとはいかないけれど大好きな彼女が居ない生活がなんとか上手く回っていった。
意外とさあ…妻に先立たれた男はー…だとか男やもめにウジが湧くだとか聞くけれど、僕らは一緒に同棲してる時からずっと、家事も一緒にしたり、分担してしたり、忙しい時は片方が全部やったりと互いにその生活に慣れていたから。
そりゃあ、僕としては何でも出来たよ?天才の五条悟だもん、出来ない事なんてないさ!
寮で僕としては部屋をぶち抜いたお隣さんのハルカの狭い部屋で過ごすのに、色々消費もするから一緒に済ます…とか、くっついていたいからってそういう理由で始めたような気がするこの習慣……。
それが慣れてしまって死ぬまで続いて。
夫婦して子育てをしっかりしてきたつもりだけれどどうしてもハルカが子供と過ごす時間が多かった。
だからだろうね、子供達もそれぞれがしっかりと僕の知らない内に生活力を得ていた。
僕がどんなに妻を亡くし落ち込んで無気力で過ごそうとも娘も息子も家の事をしっかりとこなし、ご飯を作って僕に「食べて」って促して……。
そうされたら、食べなきゃいけないよ。生きなきゃいけないよ。
心の多くをハルカが占めてるのは目に見えなくなった今でも変わりないけれど、僕はこうして元気に過ごせていますって。時々、夕空を見上げて同じ色を見てるだろう彼女を何度も思い出す。そっちで元気にやってるかな~…なんてね?