第40章 悔いのない人生を
「硝子から聞いたよ……新しい生命よりなんで僕の命を優先したんだよ……、ハルカ。オマエが生きてさえいれば、その子も死ぬことはなかっただろ……。
遅かれ早かれ、順番的に僕は死ぬものだったのにさあ~……どうして…」
生きて僕が帰って、生きた彼女が向かえてくれたのならば良いニュースといって新たな生命の存在を喜んで伝えてくれただろう…。
八人目の子供はどっちの性別だったんだろう?性別も分からなかった、領域に行ってないから医者でも分からない性別の判断も僕は知らない。
既に死んで絶対に助からない僕よりも自分が死ぬ事を知りながらも死んでいった彼女……。
いくら彼女の面影を残す子供たちをたくさん残していったとはいえ、これまでずっと満たされていた体がごっそりと掛けたような心の感覚。
この五条家の墓の中には彼女だけじゃなく、僕の祖先も入っている。
一本だけ備えた青い薔薇が異様な光景に見える。普通はこういう所には菊を持ってくるだろうけど。僕とキミはこの花が一番だろ……?なあ、ハルカ…。
「……今度来る時は三十三本、花を持ってきてあげるね?」
ハルカからの呪いの言葉を僕は受けた。ハルカの分を生きろって事。キミが居なきゃ駄目な身体になっちゃったっていうのにとんでもない呪いを掛けちゃってくれたよ…。
僕がくよくよしても元気で生きるなんて無理なモンさ……だから今は終わりなんて考えるな。僕はもう少しやる事が残ってんだ。希望を全て無くすにはまだ早いだろ…。
自問自答で鼓舞をする。ハルカに逢いたくて仕方がない、こんな再会なんて望んじゃいなかった…クリスマスまでには帰って、家族揃った幸せな日々を噛み締めたかったのに…。
返事のないハルカの眠る場所から僕は静かに立ち去り、墓地の側で路上駐車させ待たせていた車の後部座席に乗り込んだ。運転席に乗る伊地知がなんとも言えない表情してる。無理にでも慰めの言葉を掛けてこないのが今の僕には嬉しかった。
脚を組み僕はルームミラー越しの伊地知と視線を合わせた。僕が静かな所とか、ハルカを亡くした僕が一人になったのを哀れんでるんだか…。