第40章 悔いのない人生を
393.
五条家の墓前で一人、僕は立ち尽くしてた。
──光陰矢の如し。
十二月の僕の誕生日、解剖室での最期。動かなくなり冷たく、硬くなった彼女の肉体。抱きしめて変形したり、千切れた身体は硝子によって繋ぎ直された…綺麗に、丁寧に赤い血を拭われて眠ってるみたいな静かなハルカ……。
僕がもう二度と自分の脚で動く事も出来ないハルカを、どこに連れて行こうとも隠そうとも結局は彼女の身体は見つかってしまい、何人もの呪術師で僕と彼女の仲は引き裂かれた。
持っていって欲しくなかったハルカは小一時間であっという間に焼かれてしまって。燃やされる前の最期の綺麗におめかししたハルカはまるで硝子の棺で眠る姫君みたいだったけれど、キスさえも誰もが赦してくれなかった……。
何日も経過して嗅いだことの無いような香りがしても、僕は誰よりもハルカを愛していたし吐きそうになる本能を押し込める事だって出来たのに。
赦されたのは、唇以外。
僕は冷たいその白い喉にそっと口付ける、最期のキスを落とした。
肉体を持ったハルカとの一時の別れの後、次に会った時はほとんどが白い骨の姿。
しっかりとした骨格と肋骨や背骨等が、僕の死の原因となった負傷を奪っていったせいで彼女の身体をボロボロにされていた。
かろうじて人体を留めた人骨。砕かれた骨を僕ら家族や、彼女の親父さん、お兄さんと一緒にその白い骨を拾って、骨壷に収めていく……。
小さな壺に収まるハルカ。
その中の彼女のどの骨か分からないけれど、僕はその小さな欠片を僕の彼女や彼女の家族に黙ってひとつ飲み込んだ。これが僕に全て取り込めるとは分からない、でも確実に嚥下して胃に収めてる。死んでも、墓に収まっても。とりあえずは現在僕とハルカはたったひとつの存在になってる。どこまでもこれで僕と一緒、もう離れられない……彼女を手放すワケがないだろ。なあ、僕を知ってるなら分かるよな……そうだろ?ハルカ…。ぜってえ、逃さないんだから。
胸に手を当てて、彼女に聞く。きっと、僕の心の中と身体にあるハルカは苦笑いして頷くんだろうね…。
──こうして彼女はヨミの目論見通りにはならず予約されていた春日家の庭ではなく、僕がキミの前で宣言したように希望通り僕の家の五条家の墓の中にきちんと納められた。