第40章 悔いのない人生を
そんなハルカを見ていたら僕だってなんだか居た堪れなくもなる。ひとり死んでみた!なーんてはしゃいでいたけれど実際これは僕だけ楽しんでるってだけ。
誰もこっちの健康体(?)な僕を見ていないし、バラバラだった僕の全裸を前にしても吹き出して笑ったりしないしさ~……。
彼女を幸せにする、とか爺さん婆さんになるまで生きるとか良く言ってたけれどそんなのこれじゃあ果たせないよなあ……。僕って、彼女に盛大な嘘を吐いてんじゃん…互いに老いた先、最期まで生きていたかったのに。
傑が泣いて僕にくっついてるハルカの背に触れている……。
いつだったか、ハルカと傑の浮気を疑った事もあったっけ。
あの時の…、実際は僕の勘違いだったけど。後日傑と一緒に飯食った時にハルカについて「彼女にはちょっと惹かれる魅力があるね」って言ってたのは冗談だったのか本気だったのか今じゃ謎。
でも、この状態を見ていたら僕が死んだ後にもう彼女を守る存在は居なくてさ……。
せめて、傑とか僕の教え子達でも良いから、あの世まで持っていくことの出来ない僕の宝物を守って欲しい。
息子たちは確かに強くなったよ…うん、充分に強い強い、ハルカを守れるし五条家だって継げる。誇りに思う可愛くて大事な家族!
良い跡継ぎとして育ったよ。ひとりひとりが個性的な家族、でもさ…。
──こうして残していくハルカの心の支えはもう居ないでしょ。僕が死んだら誰が彼女を愛してあげるの……?
ハルカからその背を触れてる傑の顔を見た。
……まあ、傑だったら仕方ねえかあ…。そのハルカの背に触れてる手を今は触んな、なんて拒絶せず今は許しとく。
僕の死を悲しむ彼女を見ていればハルカは顔を上げて、唇がもぞもぞと動いてた。その言葉が知りたくても今の状態の僕には聴こえないけれど、傑に対して何かを言葉に出していて。
出てけとかそういうニュアンスだったんだろ。傑が解剖室から出ていった後に彼女はひとり、携帯を置いてなにかぶつぶつと死んだひたすら僕に話しかけてた。
笑ったり、微笑んだり、苦笑いしたりと色んな表情を久しぶりに見た。
うん、そうだね……結婚記念日とした、プロポーズのあの日以来、間近で見られる嫁の顔だ。