第40章 悔いのない人生を
『……私は充分に生きたよ。たくさん笑ったし悟とはあちこち行けて、美味しいものを一緒に食べられて楽しかった。もちろん、毎日楽しいけれど、小さな事で苛ついたよね~……、人生の中で私の下着も普段着も悟に何枚も切られて破かれてさ。
……普通そういう事、しないかんね?結局嫌って言うこと注意しても何度もやったしそういう事するからいけないわけ。えっちの回数も異常だったし何度も死ぬかと思ったし!
時間がもっとあれば言い残す事があったけれど……生きて会えたら伝えたかった事もあったけれど、それはもう、無理かなあ~……。私は悟の方が大切だから、ここで切り捨てちゃってごめんなさい。
残していく家族の事、よろしくね。すぐに私の後を絶対に追って来ちゃ駄目だから…それは絶対に許さないから…』
……だんだんとこちらに近付く気配を感じる。昔よりも鍛えられた呪力感知、静かすぎる周囲の為に離れた位置から解剖室に向かって硝子と傑がなにか言葉をぽつぽつと交わしながら。
壁沿いを見ながらに悟の顔を見下ろす。私はこの死に顔…、いやこれからは寝顔になる彼の顔に微笑んだ。
『充分に私は悟に幸せにしてもらったから。ありがとう、悟。あなたを愛していました。
……さようなら、私のこれからの命を使ってどうか、元気で生きて』
春日の一族の式髪は地毛が白に変わり、そこには吸い取った"負"、呪力に変換されたエネルギーが蓄えられる。それが貯れば溜まるほどに強くなれる。ただ、完全に白に染まった後に受けた怪我で死ぬ──。
死後、白髪となった女には呪力がたっぷり蓄えられて死ぬってワケじゃない。
私は知ってる。蓄えた呪力と魂は領域内で留まる、魂という概念を保つ為のエネルギーとしてごっそり持っていくって事。
私の生命を注ぎ込むために冷たく硬い肩に触れて身体を屈んで。
もう、これで本当に最期だから、とかつては何度も口付けた、今は色褪せたその唇を見た。
『これがあなたへの最期の誕生日プレゼント。約束通り、私の全てをあげる…──』