第40章 悔いのない人生を
冷たい悟の肉体に少しずつ私の温度が移ってる。それでも温まったのは少しだけ。この身体が彼のものとは未だに信じられなく……。
呪術界最強を突っ走るたった一人でありながらも、なんだかんだ嫌われる事ばかりしている人でも。人柄はともかく、たくさんの人を救ってた彼。
私が彼に出会った、始めこそ印象は不審者だと思っちゃったけどさ。段々と絆されて好きにならないようにって自制してたのに、その自制が効かなくなって悟を好きになって……愛して、彼が欲しくなって、結婚して…。
うん……、周囲にも分かるくらいに私達は良い夫婦でいられたと思う。
たくさんの思い出と共に愛し合い、その結果とても良い子供達にもたくさん恵まれて、呪術師の私達にしては幸せすぎた家族だったって思ってるよ?
家族以外にも周囲の人間も救ってた、だからこの人が死んでしまうのは大変惜しい事。まだ若いのに、最強と謳う人が四十代で死ぬなんて…。なんて早すぎる死なんだろう……。
──せめて、私がこの人と代わってあげられたなら良かったのに……。
その言葉を心で思った時に、十年以上前のふとした記憶が呼び起こされた。
それは願ってもいない事。
思いついた言葉は実践出来る可能性が充分にある。過去に黒閃を使用し、何をどうすれば良いのかを充分に頭で分かるからこそ、一族としての術式と私が使えるものは実践出来るものだと独断で判断した。
私はその真価を発揮すべきはこの時だと頭の奥で識っていた。
問題としてはこの場に悟の親友である、夏油傑が居るという事。
悟と同じく特級であり、彼もおクズな所は垣間見えるけれど非術師はともかく(猿って言ってるし…)呪術師には優しい所があるから、いいところで邪魔をされてしまう可能性。
きっとこの場に私と共に居るのは、彼も悟が早くに逝ってしまった事に悲しんでるんだろう、とその背に伝わる柔らかな体温から汲み取る。