第40章 悔いのない人生を
死んだ直後だったらまだ治せる見込みが合ったのかもしれない……。
けれどもこうも微塵も生を感じない姿になってしまったからには既に手遅れで、急に悟に私達家族や仲間たちが置いていかれてしまった悲しさ。
手に触れた悟の冷たい頬。何度も何度もボロボロな悟の怪我を吸い取ろうと試みても、私にはちっとも悟の"負"は流れて来ない。怪我をする記憶も、痛みの記憶も、死のきっかけは私が奪う事が出来ず、彼だけのものになってしまってる。
私に最期の記憶を教えてくれないんだ。
「……私は書類があるから、少し医務室に戻るよ…、」
黙っていたふたりのうち、私の反対側に居る硝子の足音が少し回り込むように離れ、ふぁさ、と布を掛ける音が聴こえる。そして薬品臭を孕む冷たい風を感じて……。
私が悟の身体がどうなってしまったのか、確認した為に剥ぎ取った布を、ここから離れる硝子がせめての想いで彼の大事な場所に掛けたみたい…。
ゆっくりとした足取りで解剖室から去っていく硝子の足音……ドアの開閉音。こうして取り残された人間は私と傑だけになってしまった。
私が俯き、曲げた背に触れてきた大きな手。そっと私の背中を優しく撫でる温かい傑の手にただ十二月だからという寒さ以上に感じる彼の暖かな体温が伝わってくる。
「悟……任務中にね、呪霊にやられてしまったんだって」
『…っ、』
「一部の呪術師に手配されてる、キミが作ったミサンガがあるだろ?反転術式が無くとも大怪我をしても呪力を流し込めば反応し、肉体を正常化してくれる……ハルカが呪術師達の為に少しずつ作ってる、今じゃ高専に属す皆を守る皆の必需品となってる"お守り"だよ」
……元はと言えば、家族の為に作り出したもの、なんだ。こうならない為の…。
その言葉は口に出す元気はない。
「直前にね、現地の子供に使って居たんだって。治してあげて…呪霊に見つからないようにして……。悟も呪術師とはいえ人の子だからね、子供を逃がす時に無限を解いていたみたいなんだ……」
私が脳内で思い描くそれが合っているか分からないけれど、家族と過ごす悟が気を抜くように、久しぶりに合ったように感じた他所の子供に対して、我が子と姿を重ねた悟が頭に浮かんだ。
その子が憎いんじゃない、憎めるワケがない。でも、悟は小さな要因を重ね、最強でありながらこんな姿になってしまったんだ…!