第40章 悔いのない人生を
彼から受け取った薔薇の花束を一旦スタッフに預け、テーブルを囲んで着席をした。
少しずつ運ばれてくる美味しい料理。
四人でゆっくりと食事をしながら、そっちは変わりない?子供たちは皆いい子にしてる?と聞かれては仕事に忙しい悟の代わりに心配なくやっていると答えていき、私からも悟に偏食せずに食べてるか、とか地方の補助監督生を困らせてないかと家とあまり変わらないような会話をした。
時々カトラリーの鳴る音を挟みつつ、ギャグを挟んだり子供たちの最近行き詰まった勉強を教えて欲しいだとか、今度みんなで旅行に行こう!って提案だとか……。笑い声を挟む楽しい食事をしていた彼は、手に持っていたカトラリーを一度置き、「あ」と思い出したような声を漏らしながら、ポケットから何かを取り出して私の方に差し出してきた。
テーブルクロスの上に置かれたもの、青と白で編み込まれたミサンガ。私の髪が一本そこに編み込まれていて、手にとって傾けながら見てみれば、それはきらりと光る白に変化してる。
前に使ったって言ってたからなあ~……、と手に握りしめてその一本が吸い取っていた"負傷"を吸い取れば手の中のミサンガに編み込まれた白は私の元の地毛の色に戻っていた。
「いやあ、ありがとうね。これで僕の残機もワンアップだ!」
『……マリオの残機みたいに言うな?』
「でも、僕は反転術式使えても他人には使えないもの。僕自身が使えない状況にもしも陥ったとしてもさ、呪力を流せば治せるんだ。残機みたいなモンじゃん」
……どちらかというと悟がこれを使う理由は、その場に居る人間をたった一人だけ救う為に使ったって記録がミサンガに残ってるのにな……と、本人を前にそれは口に出さないでおくけれど。
小さく頷いて『過信しないでよ?』と誰にでも言えるお守りを持っていれば、一度だけ瀕死までの怪我が治る、今では高専関係者の必需品として出回っているものを、差し出したその悟の手首にと結んであげた。ポケットに入れておいて効果あるものじゃないからね…。
悟なら彼自身、逼迫した状況でこれを使う事は多分ない。それでも彼を守れるひとつになれるのならば私はこの界隈でたったひとり、ミサンガを作り続けるけれど……(髪を引っこ抜いて使うんだ、ハゲない限り、だけどさ!)
手首に巻かれ、その見た目は何の変哲もない手首を彩るものを見て、弱く指を掛けてみながら微笑む悟。